
プロトラクション×肩甲骨で腕の動きを改善|リハビリ・日常に役立つガイド
2025.09.10

リハビリを続けていても成果が出ないと、「このまま良くならないのでは」と心配になる方は少なくありません。思うように腕が動かなかったり、肩や背中が固まってしまい日常の動作がつらかったりすると、不安やもどかしさを感じてしまうでしょう。
実は、肩甲骨を前方に滑らせる“プロトラクション”という動きを理解して取り入れることで、腕の動きが驚くほどスムーズになり、動作が改善する可能性があります。
肩甲骨の基本的な仕組みやプロトラクションに関わる筋肉の働きを解説するので、リハビリや日常生活の参考にしてください。
目次
肩甲骨プロトラクションとは|腕の動きをスムーズにする秘密

肩甲骨のプロトラクションは、リハビリや日常生活の動作に欠かせない重要な動きです。特に、脳卒中後のリハビリや肩の機能改善では、この動きを理解して活用することが回復のスピードや質に大きく関わります。
プロトラクションの定義と肩甲骨の動き、さらにそれを支える筋肉や関節の仕組みについて解説します。
プロトラクションの定義と肩甲骨の動き
プロトラクションとは、肩甲骨を前方へ滑らせるように動かすことを指します。簡単にいえば、「腕を前に伸ばすときに肩甲骨も一緒に前に動く」状態です。
例えば、壁を押す、物を前に取るといった動作では必ず肩甲骨のプロトラクションが起こります。この動きがスムーズにできることで、腕の可動域が広がり、肩や肘の関節に余計な負担をかけずに動かせます。
肩甲骨のプロトラクションは、単に解剖学的な用語にとどまらず、「腕を使うための第一歩」といえる動きなのです。
動きを支える主な筋肉と関節の関係
肩甲骨を前にスライドさせるプロトラクションを支えている主な筋肉は、「前鋸筋」です。この筋肉は、肋骨から肩甲骨の内側にかけて付いていて、肩甲骨を前に押し出す役割があります。さらに、大胸筋や小胸筋もサポートとして働き、肩甲骨の動きを安定させています。
肩甲骨の動きには「肩甲胸郭関節」も欠かせません。これは肩甲骨と肋骨の間で起こる関節運動で、骨同士は直接つながっていませんが、肩甲骨が上下や前後に滑るのを助けています。
つまり、肩甲骨のプロトラクションは前鋸筋を中心とした筋肉と肩甲胸郭関節が一緒に働くことで成り立っています。この仕組みを意識して動かすと、腕の動きがぐっとスムーズになり、リハビリや日常の動作も改善されやすくなります。
リハビリにも日常生活にも|肩甲骨プロトラクションの多方面効果

肩甲骨のプロトラクションは、リハビリや日常の動作を助けるだけでなく、身体全体の機能改善に幅広く役立ちます。特に、脳卒中後の回復や肩こり・姿勢の改善、さらに代謝アップまで効果が期待できるため、多くの人にとって大切な動きといえます。
脳卒中の機能改善
肩甲骨プロトラクションは、脳卒中の後遺症で低下しやすい上肢の機能を回復させるうえで大切な役割を果たします。腕を持ち上げたり手を前に伸ばして物をつかんだりする動作は、肩甲骨が前方へ滑る動きと連動しています。しかし、この動きが制限されると、リーチ動作や着替え、食事などの日常生活の基本的な動作が困難になることもあるでしょう。
実際にの改善例を紹介します。
- <回旋腱板(肩まわりの靭帯や筋肉)が損傷した患者さん>
湯を飲むときに肩甲骨が動かず、腕を不自然に持ち上げる必要があった。そこで、理学療法で前鋸筋の強化と肩甲骨の安定を促すリハビリを行ったところ、肩甲骨がうまく動くようになり、スムーズに湯を口元まで持っていける動作が改善された。
このように、肩甲骨プロトラクションを意識したリハビリは、動作の自然さを取り戻し、日常生活の自立度を大きく向上させる効果があります。
参考:jstage「肩甲骨の動的アライメント不良により食事動作の実用性低下を認めた左肩広範囲腱板断裂の一症例-肩甲骨安定化戦略による検討-」
肩こり解消や姿勢改善
長時間のデスクワークやスマートフォンの使用によって、肩甲骨が後ろに固まったままの状態になると、肩こりや猫背につながります。そこで、プロトラクションを行うことで肩甲骨を前に動かし、背中の筋肉の緊張を和らげられます。
さらに、肩甲骨の位置が整うことで自然と背筋が伸び、姿勢改善にもつながるでしょう。
代謝アップ効果も
肩甲骨の動きは大きな筋肉を使うため、代謝を高める効果もあります。特に前鋸筋や大胸筋といった上半身の筋肉を使うことで、基礎代謝量UPが期待できるでしょう。肩甲骨周りを意識したエクササイズを継続すると、体が温まりやすくなり、冷え性の改善やエネルギー消費の増加につながります。
肩甲骨プロトラクションはリハビリの場面だけでなく、肩こり改善や健康維持、さらには代謝を高めて体調を整える効果まで期待できる、日常生活に直結した大切な動きです。
効果的な肩甲骨プロトラクションのトレーニング・エクササイズ

肩甲骨プロトラクションを正しく行うためには、段階的にエクササイズを取り入れることが大切です。まずは自重を使った基本動作で正しい感覚を身につけ、その後、ダンベルなどの道具を使った応用トレーニングに進むと効率よく効果が得られます。
【基本編】壁や床を活用した基本の動き
肩甲骨のプロトラクションを習得するためには、シンプルな動きから始めるのが効果的です。最も分かりやすい方法は、壁に手をついて体を前に押し出す運動です。肩甲骨を前に滑らせる感覚を身につけやすくなります。
また、四つ這いの姿勢で床を押す動きもおすすめです。腕は曲げずに肩甲骨だけを動かすことで、前鋸筋が働きやすくなります。日常生活の姿勢改善やリハビリの基盤づくりとして、このような基本的な動きを理解しておきましょう。
【応用編】ダンベルを使ったトレーニング
基本動作に慣れてきたら、ダンベルを使った応用編に取り組むとさらに筋力や安定性が向上します。軽いダンベルを持って、前にパンチを打つように腕を伸ばし、肩甲骨を前に押し出しましょう。この動作により、前鋸筋や大胸筋が強化され、日常生活の腕の操作がスムーズになります。
他にも、ダンベルを頭上に押し上げた状態から腕を固定したまま肩甲骨だけを前に押し出す運動があります。これにより肩甲骨の安定性が増し、腕を高く上げる動作がしやすくなります。
このようなトレーニングは、筋肉の強化だけでなく、血流改善や代謝アップにも効果的です。肩甲骨周りの動きを取り入れることで姿勢が改善し、肩こりや疲労感の軽減も期待できます。
まとめ|肩甲骨プロトラクションがもたらす機能回復と日常生活への応用

肩甲骨プロトラクションとは、肩甲骨を前に押し出すような動きのことです。脳卒中後の腕の回復や日常生活の動作改善に役立つだけでなく、肩こりの解消や代謝アップといった効果まで期待できる、とても大切な動きです。
この動きを行うときは、前鋸筋という筋肉をはじめとする肩甲骨まわりの筋肉が協力して働きます。そのおかげで腕を動かせる範囲(可動域)が広がり、リハビリやトレーニングの成果が出やすくなるのです。
練習方法もシンプルで、壁や床を使った基本的な動きから始められます。慣れてきたらダンベルを使う応用トレーニングに進むことで、より効果的に鍛えることができます。大事なのは段階を踏むこと。そうすれば無理なく安全に続けられるのです。
さらに、この動きはリハビリや運動だけでなく、日常生活の中にも取り入れられます。例えば、少し背伸びするように意識したり、家事の合間に肩甲骨を動かすだけでも十分。小さな習慣が積み重なって大きな変化につながるので、今日から気軽に試してみましょう。