リハビリの目標設定に重要な予後予測|回復見込みをイメージした適切な治療の選択
2025.12.17
怪我や病気を患ったとき、どの程度回復するのか予想できず不安を抱える方もいるでしょう。医療現場では、怪我や病気からどの程度回復するのか予後予測を行い、治療やリハビリの方針を決定します。
リハビリ前に予後予測を行うと、患者や家族も治療方針に納得でき、退院後の生活もイメージしやすくなるのがメリットです。
しかし、回復の程度や後遺症の重さは人それぞれ異なり、さまざまな要因が影響します。安心して療養期間を過ごすためにも、予後予測の方法や回復に影響する要因について理解を深めましょう。
目次
最適なリハビリを行うための予後予測とは?重要性や方法を解説

患者さんの状態に合わせたリハビリを行うためには、予後予測が大切です。回復の見込みを想定しなければ、適切な治療が選択できません。予後予測の概要や、回復見込みを予想する方法を解説します。
患者さんの予後を予測するとは?
予後を予測するとは、怪我や病気からどの程度回復するのか、未来を見通すことを意味します。
予後予測をもとに「歩けるようになるまでどれくらい時間がかかるのか?」「麻痺した手がどこまで動くようになるのか?」「仕事復帰できるのか?」など、現時点で予測される範囲で本人や家族に説明します。
同じ病気でも対象者によってさまざまな予後が考えられるため、統計データや医療チームでの話し合いをもとに決定するのが特徴です。
リハビリにおける予後予測の重要性
予後予測は、患者さんや家族の精神的負担と不安を軽減したり、効果的なリハビリを選択したりするためにとても重要です。回復の見通しをつけることで、さまざまなメリットが得られます。
<予後予測の重要性>
- 症状の回復を予測すると生活の不安が減る
- 退院後の生活に向けた準備ができる
- 適切な負荷量のリハビリが提供できる
- 介護サービスなどの手配が早めに調整できる
- 患者さん本人のモチベーションが変わる
予後予測は効率的なリハビリに必要不可欠とされており、リハビリ方針の最適化を可能にします。他にも、回復見込みが不透明なままではリハビリや退院後の生活準備が十分に行えないため、本人や家族を安心させる手段にもなるでしょう。
回復見込みを予測する方法
予後予測は医療者の経験だけでなく、医学的に信頼性の高いADL評価や身体機能評価方法を用いて回復の見通しを計ります。
<予後予測の方法>
- 蓄積された過去の症例データを元に一般的な回復過程を予測する
- 麻痺の程度やADLの改善度を統計データと比較して予測する
- 脳画像と臨床情報を組み合わせる
- 多職種カンファレンスを行い総合的に判断する
予後予測は統計データを参考にしながら医療チームで話し合うのが大切です。現在はAIを使った予後予測ツールも研究されているため、さまざまな視点やツールを用いると、より信頼性の高い予測が可能になるでしょう。
回復見込みの予測では、医療者の経験や統計データに加え、客観的で信頼性の高い「評価指標」の活用が不可欠です。特にリハビリテーション分野では、特定の疾患や機能に特化したスケール(評価尺度)が予後予測の精度を大きく左右します。
【予後予測に用いられる主要な評価指標例】
- ADL(日常生活動作)評価: FIM(機能的自立度評価法)は、患者さんの介護負担度や自立度をスコア化し、退院後の生活レベルを予測するための最も重要な指標の一つです。発症早期(入院時)のFIMスコアが低いほど、回復期リハビリテーション終了時のADL改善度や在宅復帰率は低い傾向にあることが、多くの研究で示されています。
- 運動機能評価: 脳卒中後の麻痺の回復段階を客観的に評価するBrunnstrom Recovery Stage (BRS)や、上肢機能に特化したARAT(Action Research Arm Test)などがあり、これらの初期スコアは、将来の麻痺の回復程度を予測する強力な根拠となります。
- 脳画像(MRI/CT): 脳の損傷部位や損傷の大きさ(特に皮質脊髄路の損傷度合い)は、運動機能の予後に大きく影響します。医療チームは、これらの画像情報と臨床所見を組み合わせることで、より精度の高い予測を行います。
リハビリでどこまで回復する?入院期間や予後予測を左右する要因

リハビリによる回復を含めて、予後予測は疾患やさまざまな要因が影響して大きく変わります。病気のなかには、予後が悪い進行性の病態もあるため注意が必要です。疾患別の回復見込みや予後に影響する要因について解説します。
回復までの見通しと期間
怪我や病気からの回復にはある程度の目安がありますが、重症度や年齢によって大きく異なります。病気の種類によっては進行性の神経疾患があり、緩やかに悪化するケースがある点も覚えておきましょう。
ただし、進行性の疾患でも予後は人それぞれ異なり、難病といわれる疾患でも長く自立した生活を過ごせる症例があります。このように、回復までの見通しは個人差が大きいことを理解しておくことが大切です。
疾患で異なる回復見込み
身体機能や後遺症の回復見込みは、疾患によっても大きく変わってきます。整形外科疾患や呼吸器疾患、神経系の疾患など、さまざまな怪我や病気におけるおおよその目安や特徴を把握しましょう。
<整形外科疾患>
- 骨折:部位によるが癒合まで約6〜12週間、日常生活への復帰は約3〜6か月
※高齢者の骨折は回復に6か月以上かかるケースもある
<中枢神経疾患>
- 脳卒中:発症後3ヶ月が最も回復するが6か月以降は緩やかになる。麻痺が重度の場合は回復に時間がかかり、後遺症を抱えるケースが多い
【脳卒中リハビリにおける「早期予後予測」の具体的な基準】
脳卒中のリハビリテーションでは、「どこまで回復するのか」という発症直後(急性期)の予後予測の精度が、患者さんやご家族の不安軽減、そしてその後のリハビリ目標設定の適切性に直結します。
早期予後予測として臨床現場で広く活用されている基準の一つが、「二木の早期自立度予測基準」です。
これは、発症から48時間以内の「随意的な股関節または足関節の運動の有無」というシンプルな評価から、回復期リハビリテーション病棟を退棟する際の「歩行可能レベル」や「ADL(日常生活動作)の自立度」を予測するものです。
| 随意的な股関節・足関節運動の有無(発症後48時間以内) | 予測されるリハビリ終了時のADL/歩行レベル(目安) |
| 両方とも可能 | 自立して歩行が可能になる可能性が高い |
| いずれか一方のみ可能 | 介助での歩行または車椅子移動の可能性が高い |
| 両方とも不可能 | 介護量の多い状態での在宅復帰または施設入所となる可能性が高い |
- パーキンソン病:進行性疾患のため治る概念はなく、機能維持が目的になる
- 脊髄損傷:完全麻痺は回復が難しいケースが多い
<呼吸器疾患>
- 肺炎:軽傷例は約1〜2週間で回復。重症例は約3週間〜数ヶ月かかるが、体力低下の回復(廃用症候群)に時間がかかるケースがある
上述した回復見込みはあくまでも目安の数字であるため、参考程度にしてください。回復の予後は、疾患の重症度だけでなく、さまざまな要因が複雑に関係することを覚えてきましょう。
予後を左右するさまざまな要因
予後予測は病気の重さだけでなく、患者さん自身の要因や治療時期、リハビリの環境によっても変わります。予後を左右する主な要因を見ていきましょう。
<病状に関する要因>
・病気や怪我の重症度
・病気の原因と部位
<治療に関する要因>
・発症から治療開始までの時間
・リハビリの質と量
<患者さんの個人的要因>
・年齢
・合併症の有無
・病前の体力や健康状態
・既往歴
・認知症の有無
たとえ同じ病気や怪我を負ったとしても、患者さん個人の要因が異なることで回復の経過も変わってきます。上記のような要因を抱えている方は、その他の方と比べると、回復に時間がかかることが多いでしょう。
リハビリの予後予測を変える!意識すべき工夫や家族のサポート

疾患によってはリハビリで予後予測を良い方向に変える事も可能です。ただし、脳卒中などの病変では後遺症を抱える可能性があるため、早めに環境を調整する必要があります。
ここでは、患者さんと家族それぞれにできる工夫やサポート方法を見ていきましょう。
自主トレ―ニングで機能回復
病気や怪我から回復して予後を良くするためには、自主トレーニングが欠かせません。リハビリを受けられる時間や回数に限りがあるため、空き時間に積極的な運動をすると効果的です。
例えば、部屋で立ち座りを繰り返し行ったり廊下を歩いて体力を付けたりする方法も良いでしょう。しかし、やみくもな運動は症状を悪化させる恐れがあるため、主治医や担当のセラピストに運動の方法を確認するのが大切です。
予後予測をより良い方向に変えるために、自主トレーニングは「量」だけでなく「質」が重要です。リハビリの時間外に、脳卒中後の機能回復の鍵となる「脳の可塑性(かそせい)」を最大限に引き出すためには、以下の点を意識しましょう。
- 高頻度・反復練習の徹底: 脳の再組織化(可塑性)を促すためには、一回あたりの訓練量よりも、高頻度に反復することが重要です。セラピストから指導された運動を、短時間でも良いので、日常生活の中で何度も繰り返す習慣をつけましょう。
- 「意図的で集中した練習」: ただ体を動かすのではなく、「どう動かすか」に意識を集中させることが、神経回路の再構築を促します。例えば、指を動かす練習をする際、「どの指を、どの方向に、どのくらいの力で」動かしているかを集中して感じながら行いましょう。
在宅復帰に向けた環境調整
予後予測で「後遺症を抱える可能性がある」と指摘されたら、早めに住宅環境を調整する必要があります。介護認定のための調査や住宅改修にはある程度時間を要するため、入院中の早い段階で動き始めましょう。
入院中は、社会福祉士やケアマネージャーに相談が可能です。「どんなサービスが利用できるのか?」「どれぐらい補助が効くのか?」など確認して退院の準備をしましょう。
退院後もリハビリを継続する
予後予測はあくまでも回復の見込みを測るものです。そのため、退院後に機能が回復する可能性も考えられます。例えば、脳梗塞の回復は6ヶ月までが大切といわれていますが、それ以降のリハビリが無意味になるわけではありません。
筋力の大幅な改善は見込めないものの、神経筋の活性化や姿勢改善、動作改善によって生活が楽になるケースもあります。介護サービスや自費リハビリなどを利用して、運動を継続する手段もおすすめです。
FAQ|リハビリの予後予測に関するよくある質問

Q:予後予測とはなんですか?
A:予後予測とは、病気や怪我からの回復見込みを予想する行為です。回復の程度を予測すると適切な治療やリハビリにつながり、患者さんや家族は安心感を得られるメリットがあります。
Q:予後はどのように予測するのですか?
A:予後予測は医療者の経験だけでなく、統計的データや画像診断、ADLの改善度などさまざまな評価を元に考えられます。病状には個人差があるため、1人の意見だけでなく多職種が連携して回復見込みを行うのが大切です。
Q:予後が悪くなる原因はなんですか?
A:病気や怪我の予後は、重症度や個人的要因、環境的要因が影響します。「組織の損傷が大きい」「高齢で合併症も多い」「治療開始が遅かった」など、予後を悪くする要因はさまざまです。
Q:予後を良くする方法はありますか?
A:予後を良くするには、早期から適切な治療を受けるのが重要です。また、リハビリ以外の時間に積極的な運動を行うと筋力や体力が向上し、予後がよくなる可能性があります。
まとめ|リハビリの予後予測で時期に応じた最適な治療を選択しよう

怪我や病気の回復において、「どこまで良くなるのか」という見通し(予後予測)を立てることは、非常に大切です。この予測があるからこそ、患者さんやご家族が抱える不安を減らし、最適な治療・リハビリの方針を選び、安心して退院後の生活準備を進めることができます。
予後予測は、医師やセラピストが経験や勘だけで行うものではありません。過去の症例データ、脳画像、ADLの評価など、多角的な視点と信頼できる医学的根拠に基づき、医療チーム全員で話し合って決められています。今後はAIツールなども活用され、さらに正確な予測が可能になると期待されています。
もちろん、予後は病状の重さや年齢など、様々な要因で左右されますが、回復を目指す上でリハビリは欠かせません。特に、リハビリの時間外に行う自主トレーニングは、機能回復を促す重要なカギです。担当のセラピストに自分に合った運動方法を確認し、焦らず積極的にリハビリを続けていきましょう。







