半側空間無視とは?脳卒中後のリハビリと、家族に知ってほしい「左側の世界」への寄り添い方
2025.12.22
脳卒中を経験したあと、ご家族の行動に「あれ?」と違和感を覚えることはありませんか?実はそれは、「半側空間無視(はんそくくうかんむし)」という高次脳機能障害かもしれません。
「左側のおかずだけ残してしまう」「左にある壁によくぶつかる」……。決してわざとではなく、目は見えているのに、脳が左側の世界をうまくキャッチできなくなっているのです。急にそんな診断をされたら、「これからどうなるの?」「リハビリで良くなるの?」と不安になるのは当然ですよね。
でも、適切なリハビリと、おうちでのちょっとした工夫があれば、少しずつ自立した生活を取り戻していけます。
この記事では、半側空間無視がどんなものなのか、そしてご家族が今日からできるサポートのコツを、分かりやすくまとめました。大切なのは、一人で抱え込まず、正しく理解して一歩ずつ進むことです。
目次
半側空間無視とは?日常生活に影響を与える症状と原因を解説

半側空間無視とは、左側を認知できず無視してしまう状態で、主に右大脳半球の障害が原因です。日常生活のあらゆる場面に支障をきたすため、入院中のリハビリが欠かせません。半側空間無視の病態を正しく理解して、家族のサポートに役立てましょう。
半側空間無視の特徴的な症状
| 項目 | 半側空間無視 | 視野欠損(同名半盲) |
| 主な原因 | 脳の「注意」を司る部分の損傷 | 視覚の通り道や視覚野の損傷 |
| 状態 | 目は見えているが、脳が認識を忘れている | 物理的に見えない範囲(欠損)がある |
| 本人の自覚 | 無視していることに自覚がない | 見えないことに自覚があることが多い |
| よくある行動 | 左にある食事や物に全く気づかない | 見えない部分を補うために、目をキョロキョロ動かす |
| リハビリ | 注意を向ける訓練(視覚探索訓練など) | 残っている視野を上手に使う訓練 |
半側空間無視とは、自分の体や周囲の片側に気づかなくなる症状で、左側にある人や物が認識できない状態です。右脳が損傷して左側を無視するケースが多く、以下のような現象が見られます。
- 食事のときにお皿の左側を食べ残す
- 左側の柱や壁にぶつかる
- 洗顔や髭剃りを片側しか行わない
- 無視側から話しかけられても気づかない
病態を理解しないと間違った介助をしてしまうおそれがあります。半側空間無視のポイントは、「見えているけど気づかない」という注意障害であることを理解しておくことが大切です。
主な原因は脳卒中による損傷
半側空間無視は、脳梗塞や脳出血、外傷性脳損傷などで脳にダメージが加わるのが主な原因です。特に、右の大脳半球(特に側頭頭頂接合部)を障害すると、半側空間無視が多く見られます。その理由は、以下のような右脳と左脳の働きを知ると理解できるでしょう。
- 右脳:空間を全体的に把握する
- 左脳:主に右の空間を把握する
このように、右脳を障害すると左の空間を把握できなくなるため、半側空間無視という症状が現れるのです。また、片麻痺症状に加えて半側空間無視が生じると、日常生活に大きな影響を与えます。
後遺症改善に向けたリハビリが重要
半側空間無視に対する治療方法はリハビリが一般的で、投薬は補助程度の役割となります。
リハビリで改善を目指すには、脳の可塑性と呼ばれる神経ネットワークの再構築が重要です。
脳の可塑性は発症後数週間〜数ヶ月がピークとされているため、およそ半年までのリハビリが、半側空間無視改善に重要な期間となるでしょう。
参考:京都大学医学部付属病院「脳卒中後のリハビリテーションについて」
半側空間無視とは…リハビリで改善する?症状軽減に向けた訓練内容

半側空間無視とは、自宅での生活に大きな影響を与え、改善が乏しければ多くの介助が必要となります。そのため、症状に応じた適切なリハビリが大切です。具体的には、視覚探索訓練や体性感覚の修正など、専門的な内容を行います。
日常生活動作も大切なリハビリとなるため、自身や家族でも意識できるポイントを理解しておきましょう。
視覚探索訓練で無視側に注意を向ける
視覚探索訓練とは、無視している側に意識や注意を向けるように誘導するリハビリ方法の一つです。本人の認知レベルにあわせて難易度を段階的に調整し、注意力の改善を促します。
<訓練の例>
- 無視しやすい側に絵や文字を置いて探す練習
- カレンダーの特定の文字を探す
- 文字や数字探し
視覚探索訓練は、根気強く続けるのがポイントです。注意力が続くように、適度な声かけや休憩を挟むなどの工夫をしながら行い、無視症状の改善を目指しましょう。
体性感覚と視覚が一致した運動
右大脳半球を障害すると自分の体の左側も認知できなくなるため、体性感覚にも大きな影響を及ぼします。そのため、半側空間無視の改善方法として、視覚と体性感覚を刺激するリハビリ方法も効果的です。
自分自身の体を正確に把握できなければ、視覚による探索課題を行っても効果が薄い可能性があります。座位や立位で体の中心を意識するような練習を行うと良いでしょう。
参考:J-stage「半側空間無視患者のADL回復に体性感覚情報の統合が有用であった症例」
日常生活動作もリハビリの一部
半側空間無視を改善するには、「リハビリ以外の時間をどのように過ごすか」も重要なポイントです。例えば、着替えや食事、洗顔などの日常生活動作も後遺症改善につながります。
しかし、脳卒中後は思うように体が動かず、イライラしてしまうこともあるかもしれません。適宜介助をお願いしたり補助具を使用したりするなど、工夫をしながらリハビリを進めていきましょう。
半側空間無視の改善方法とは|自宅介護でのポイントと生活の工夫

半側空間無視とは、退院後の生活にもさまざまな工夫が必要になります。片側の運動麻痺に加えて左側の無視症状があるため、安全面への配慮や介助量を減らすのがポイントです。具体的な生活の工夫について解説します。
食事やトイレなどに一工夫必要
| 場面 | 逆効果になりやすい例(NG) | 前向きな気づきを与える例(OK) |
| 食事中 | 「左側をまた残してるよ!」 | 「左側に大好きなデザートがあるよ」 |
| 歩行中 | 「左を見てって言ったでしょ」 | 「左側に壁があるから、ゆっくり進もうね」 |
| 確認時 | 「全部終わったの?」 | 「お皿の上、全部食べ終わったかな?」 |
半側空間無視があると、食事やトイレなどの日常生活動作に支障を及ぼします。例えば、「お皿の反対側を食べ残す」「トイレで衣服の操作や便座にうまく座れない」などの現象が見られることが多いです。
日常生活では、左側を意識させるような声かけや配置の工夫を行い、習慣化を身に着けることで介助量を少なくして自立した生活が送れるでしょう。
安全な生活に向けた環境設定
半側空間無視は、本人が左側を無視しているという自覚がないため、適宜家族が声かけを行いましょう。例えば「食事は全て食べ終わった?」「洗体時に洗い残しはない?」など、気づきを与えるような声かけが大切です。
その他にも、コード類や家具の配置に注意し、衝突や転倒による怪我が起きないような工夫も必要です。本人の生活状況を見ながら、安全面に配慮した配置転換などを行いましょう。
必要に応じて専門家のリハビリを受ける
半側空間無視は、専門的な視点から生活のアドバイスを受けると効果的です。退院後でも、介護保険を利用したデイケアや訪問リハビリを申し込むと、専門家のリハビリを継続して受けられます。
特に、訪問リハビリは理学療法士や作業療法士の目線で生活の工夫やポイントを教えてもらえるメリットがあるため、積極的に利用すると良いでしょう。
FAQ:半側空間無視に関するよくある質問

Q1:半側空間無視は、目が見えなくなる病気(視力障害)とは違うのですか?
A:違います。半側空間無視は、視力や視野そのものに問題があるのではなく、「見えているけれども、脳がその方向に注意を向けられず、認識できない」という注意障害の一種です。そのため、「見えているはずなのに気づかない」という現象が起こります。
Q2:なぜ右側の無視ではなく、左側の無視が多いのでしょうか?
A:右脳と左脳で、空間を把握する役割が異なるためです。右脳は空間全体を広く把握する役割を担っていますが、左脳は主に右側の空間しか把握していません。そのため、右脳を損傷すると左側をカバーする機能が失われ、左半側空間無視が起こりやすくなります。
Q3:リハビリをすれば、以前のように完全に治るのでしょうか?
A:リハビリによって症状の軽減や、日常生活の自立を目指すことが可能です。脳の神経ネットワークが再構築される「可塑性(かそせい)」を利用したリハビリが重要です。発症後数週間から数ヶ月がそのピークとされており、およそ半年までの期間に集中的にリハビリを行うことが、改善の鍵となります。
Q4:自宅で家族ができる一番のサポートは何ですか?
A:本人が無視している側に「気づき」を与える声かけと、安全な環境づくりです。本人は左側を無視している自覚がないため、「食事は全部食べた?」「左側に壁があるよ」といった具体的な声かけが有効です。また、左側の家具やコードにぶつかって怪我をしないよう、部屋の配置を工夫することも大切です。
Q5:退院後も専門的なリハビリを続ける方法はありますか?
A:介護保険を利用したサービスで継続が可能です。デイケアや訪問リハビリを利用することで、理学療法士や作業療法士などの専門家から、生活に合わせた具体的なアドバイスや訓練を継続して受けることができます。
まとめ|半側空間無視とは何か…専門的なリハビリで生活の自立を目指す

半側空間無視は、「目が見えない」のではなく、脳が「左側を忘れてしまう」という、少し不思議で戸惑う症状です。
「左側のおかずだけ残してしまう」「左の袖に腕が通せない」といった様子を見ると、ご家族は「どうして?」と不安になるかもしれません。ですが、それは脳が一生懸命に回復しようとしている過程で起きていることです。
この症状には、お薬よりも「リハビリ」という地道な積み重ねが一番の特効薬になります。特に発症から半年くらいまでは、脳が変わりやすい「黄金期」です。まずは専門家と一緒に、視覚や体の感覚を呼び起こす訓練をコツコツ続けていきましょう。
そして、おうちに帰ってからもご家族の力が支えになります。
- 「左側に大好きなデザートがあるよ」といった、本人が自然に左を向きたくなるような声かけを。
- ぶつかって怪我をしないよう、お部屋の動線から障害物を減らす工夫を。
一人で頑張りすぎる必要はありません。デイケアや訪問リハビリなど、プロの助けも上手に借りてください。ご本人が「左側の世界」を再び感じられるようになり、家族みんなで笑顔の食卓を囲める。そんな当たり前の日常を取り戻すために、今日できることから一つずつ、一緒に歩んでいきましょう。






