脳出血のリハビリにはどれくらいの期間が必要?回復のゴールデンタイムとは
2023.08.04
脳出血は脳血管障害の脳卒中のひとつ。脳卒中と聞くと、命に関わる病気だとイメージする人は多いのではないでしょうか。確かにかつては死亡要因第1位の疾患でしたが、現在は第4位になり、死亡率は低下しています。
死亡率は低くなりましたが、寝たきりの原因疾患としては第1位で、後遺症に悩まされる人は多くいます。しかし、発症後のリハビリにより、後遺症の程度を抑えることは可能なことも。そして、リハビリをいつ始めるか、どの期間にどのような目的でリハビリをするかで回復の成果も変わってきます。
今回の記事では、脳出血のリハビリに必要な期間や3ステップ、注意点について解説します。
目次
脳出血とはどんな疾患?代表的な症状と合併症について徹底解説
脳の血管にまつわる疾患は、脳梗塞やくも膜下出血等…聞いたことはあるけれど、脳出血はどのような疾患で症状があるのでしょうか。
ここでは脳出血についての理解を深めましょう。
高血圧での発症頻度が高い疾患
脳血管障害による死因のうち、脳出血は31%を占めています。細い脳内動脈が破れ、血液の塊(血腫)が脳細胞を圧迫し壊すことで発症します。この原因の多くが高血圧によるものです。
血管にかかる圧力が高い状態(高血圧)が続くと、血管への負担が大きくなり、血管に小動脈瘤というコブができてしまいます。このような血管内の病変が脳出血の発症に大きく関わっているのです。
出血部位によって症状は違う
高血圧による脳出血は、血腫の発生部位により多い順に以下の5つに分類されます。また、それぞれ障害される部位により異なる症状が現れます。
①被殻出血:血腫の反対側の片麻痺、知覚障害、失語、失認、意識障害
②視床出血:血腫の反対側の片麻痺、感覚障害
③小脳出血:歩行障害、運動失調、めまい、頭痛
④橋出血:反対側の片麻痺(時に四肢麻痺)、呼吸障害、意識障害
⑤皮質下出血:痙攣、頭痛、嘔吐、意識障害、失語
脳出血は高い確率で片麻痺、運動障害、痙攣といった運動障害が現れます。また感覚障害や、言語障害といった障害が多面的であるのも特徴です。そのため、脳出血はリハビリ対象の疾患の多くを占めており、さまざまな訓練が必要になります。
麻痺により筋肉や骨に関する障害が現れる
麻痺になると、脳から筋肉や骨格、関節等の運動器への「動かせ!」という命令が伝わらなくなります。自分でうまく動かせないため、筋力低下、関節可動域が制限され、骨粗鬆症や骨折、褥瘡(床ずれ)の原因になります。
これらの運動器が使えなくなると、罹患後の生活が寝たきりになり、社会復帰どころかトイレ等の生活の基本的な動作ができなくなってしまうのです。
脳出血のリハビリの期間はどれくらい?回復を目指す3ステップ
脳出血は発症から150日、高次脳機能障害の場合は180日までは、回復期病院で入院してリハビリを受けることができます。また、リハビリは大きく分けて3つの期間に分かれます。
1)急性期のリハビリ
急性期は発症から1〜2ヶ月、入院した病院でリハビリを行います。脳出血は、なるべく早い段階からリハビリを始めることが後遺症の軽減につながると言われています。
しかし、発症直後は容体が不安定なことも多く、リスク管理は必須です。病室のベッドサイドで理学療法士や作業療法士、看護師とともに、筋力低下や廃用症候群の予防が主な目的で行われます。
2)回復期のリハビリ
回復期は急性期後の約6ヶ月までの期間です。脳出血による症状が明確に判明しているため、症状に応じたリハビリを行います。
運動機能の強化や維持に加え、日常生活に必要な動作や、言語機能、嚥下機能の訓練といった、退院後の生活を見据えた目的があるのが、回復期のリハビリです。
3)維持期のリハビリ
回復期が終わり、退院して自宅や施設等で行われるのが維持期のリハビリです。名前の通り、今までのリハビリで回復した身体機能を維持していくことが目的です。
もちろん、罹患前の状態に完全に戻っていない場合も多いため、回復目的のリハビリも継続します。
家庭や職場に適した訓練や、生きがいの創出も維持期のリハビリのひとつで、状況によっては家のバリアフリーリフォームや、リハビリテーション専門病院や訪問リハビリといった施設利用も必要になります。
脳出血のリハビリによる回復率!リハビリ期間に気をつけるべきこと
多くの場合、適切なリハビリを早い段階から始め、継続することにより良い成果をあげることができますが、注意しなければならない点もいくつかあります。
社会復帰のチャンスはある!
障害が重度の場合は社会復帰に時間がかかってしまうケースがありますが、多くの人が社会復帰を果たしています。脳出血を含む脳卒中発症後の復職率は、約50%と報告されています。
社会復帰のためには、発症後の早い段階でリハビリを開始することがポイントで、特に3ヶ月までの期間は麻痺回復のゴールデンタイムと言われています。過度な活動制限や安静は、症状にもよりますが回復の妨げになります。少しずつでも訓練を開始することが重要です。
リハビリを続けることでQOL向上と死亡率は低下する
回復期が終わると、一般的には家庭や施設に戻ります。理学療法士や作業療法士等の専門的なスタッフとともに行ってきたリハビリを、今度は自主的に行うことが必要になります。
しかし、退院時に歩行が困難だったりすると、退院後に寝たきりになってしまうケースも。歩かなくなると運動機能的にも、生命的にも急激に予後不良になってしまうと言われています。
また、意欲や活動がなくなると、認知症やうつ病等の知能や精神的な症状を引き起こす可能性も高くなります。日常生活において、今までのようにうまくいかないことがあっても、維持期のリハビリを継続することで、生きがいを創出することは可能です。小さな目標を設定し、達成感を重ねる等の工夫をしましょう。
リハビリ中のリスク管理はしっかりと
脳出血のリハビリを行う際はリスクも伴います。麻痺だけでなく、平衡感覚や空間認知障害があると、転倒による打撲や骨折といった事故が起こる可能性があります。
リハビリ中は血圧や脈拍の数値には留意し、リハビリの可否はアンダーソン・土肥の基準を参考に決めると良いでしょう。
また過度な繰り返しの訓練は、逆にオーバーユースになりやすいため、少量の訓練を1日に数回に分けて実施すると良いでしょう。
【参考】運動の実施基準
脳出血のリハビリに必要な期間とゴールデンテイムや注意点のまとめ
脳出血は、死亡率は低下し社会復帰も可能な疾患です。適切な治療やリハビリを早期に開始することで、社会復帰の可能性は高まります。
発症後、しばらくは安静にしていたい…と思うかもしれませんが、1日数分からでもリハビリをすることが重要です。特に発症後3ヶ月までの期間は麻痺回復にも効果が高いですし、退院後の自主的なリハビリにスムーズに移行しやすいといったメリットがあります。
もちろんリハビリは1人でするのではなく、ご家族のサポートや訪問リハビリ、症状によってはリハビリテーション専門病院に転院、精神的、社会的サポートが必要であれば自治体等の支援の利用も念頭に入れておきましょう。
リハビリはつらいこともあります。しかしリハビリに励むことは、絶対に自分のためになります。リスク管理には十分気をつけて取り組んでいきましょう。