末梢性・顔面神経麻痺の治療とリハビリ方法 – 後遺症への対処法も解説
2024.03.13
末梢性顔面神経麻痺は、後遺症の予防や改善のためにリハビリを実施します。誤ったリハビリは症状を悪化させる可能性があるため、医師やリハビリ専門家の介入が重要です。
末梢性顔面神経麻痺は突然顔の筋肉がうまく動かせなくなり、日常生活や見た目に支障がでる病気です。
今回は末梢性顔面神経麻痺のリハビリをご検討されている方にむけて、症状、治療法、リハビリ方法についてお伝えします。
目次
末梢性・顔面神経麻痺とリハビリ|症状や治療法を解説
末梢性顔面神経麻痺の原因、症状、治療法をお伝えします。末梢性顔面神経麻痺の仕組みを知れば、病気への理解が深まります。
末梢性顔面神経麻痺とは?
顔面神経は顔の筋肉を動かす神経です。顔面神経に何らかの原因で病気が生じると麻痺が起こります。
末梢性顔面神経麻痺の主な原因は、ベル麻痺とハント症候群です。疲れやストレスで免疫が低下したときに、沈静化していたウイルスが再び活性化して顔面神経を障害します。
ベル麻痺は単純ヘルペスウイルスが原因といわれており、顔面神経麻痺の60~70%程度を占めます。ハント症候群は顔面神経麻痺の15~20%を占め、帯状疱疹ウイルスの再活性化が原因です。
他に顔面神経麻痺の原因として、耳の炎症(中耳炎)、耳下腺脳腫瘍、頭や顔のケガが考えられます。
症状|顔の筋肉に運動障害
末梢性顔面神経麻痺は顔の筋肉運動が妨げられます。通常、麻痺は顔面のどちらか半分に起こります。主な症状は以下のとおりです。
・表情が作れない、口笛がふけない、口が開けられない
・食べ物や水が口からもれる
・眼が閉じられない
・シャワーのとき眼に水が入る
・涙の量が少なくなる
・味覚障害
ハント症候群は耳や口に痛みを伴う湿疹ができたり、耳鳴り、難聴、めまいなどが現れます。
検査と治療|ステロイド投与と手術療法
末梢性顔面神経麻痺の治療は耳鼻咽喉科が専門です。麻痺の原因を調べて、早期に治療しましょう。
末梢性顔面神経麻痺の検査は次のとおりです。
頭部MRI検査 | 中枢性顔面神経麻痺の可能性を除外する |
聴力検査、眼振検査、血液検査 | 内耳神経の障害があるかを確認 |
味覚検査 | 味覚に異常があるかを確認 |
あぶみ骨筋反射 | 顔面神経麻痺が起こっている部位を推測する |
シルマーテスト | 涙の分泌を検査する |
誘発筋電位検査(ENoG) | 発症から1~2週間後に実施する。顔面神経を刺激して記録した筋電図の左右差をみる検査で、重症度や予後の予測ができる |
ベル麻痺やハント症候群の診断がされたら、ステロイドホルモンの内服で顔面神経のむくみをとります。同時に抗ウイルス薬を内服してウイルスの増殖を抑制。
適切な早期治療をすれば、患者さんの8割が元の状態に戻ります。
治療をしても回復しない症状に対して、手術をする患者さんもいます。症状や見た目の改善が目的です。
末梢性・顔面神経麻痺のリハビリ…後遺症と訓練方法を解説
末梢性顔面神経麻痺の後遺症とリハビリ方法についてお伝えします。顔面神経麻痺のリハビリは適応の判断や加減が難しいため、医師やリハビリ専門家と実施しましょう。
後遺症|病的共同運動と顔面拘縮
末梢性顔面神経麻痺で高度の神経障害が起きると、顔面神経の回復過程で後遺症が生じる患者さんもいます。
主な後遺症は病的共同運動と顔面拘縮です。
病的共同運動は「口を動かしたときに目が閉じる」「目を動かしたときに口角が上がる」などの症状がでます。意図しない表情筋が一緒に動いてしまうのです。後遺症のうち高頻度で不快な症状です。
病的共同運動は顔面神経が回復するときに、別の表情筋に顔面神経が侵入して発症するといわれています。
ボツリヌス毒素の投与とリハビリが治療法です。ボツリヌス毒素は筋肉の収縮を抑制する作用があります。効果の持続期間は2~5か月で、繰り返し投与が必要です。専門医療機関で治療します。
また、顔面拘縮は顔の表情筋が常に緊張した状態になり、ひきつれる症状です。顔面神経麻痺後に表情筋が硬くなるため起こります。顔面拘縮によって頬の筋肉が短くなり、顔を動かしていないときも口角が上がってしまいます。
表情筋のストレッチ・マッサージ
顔面神経麻痺のリハビリは、医師やリハビリ専門家の指導下で実施しましょう。
表情筋マッサージの目的は、病的共同運動と顔面拘縮の予防(急性期)、顔面拘縮の憎悪予防(慢性期)です。
表情筋ストレッチとマッサージの方法は以下のとおりです。
➀頬のマッサージをする
顔に力を入れずリラックスして行う。麻痺側の頬に指をそえて「縦・縦」「横・横」「丸を描くように」優しくほぐす。強い力をかけないことがポイント。
②目のまわりをマッサージする
眼の上、眼の下、眼の横などをぐるりとマッサージする。
③口のまわりをマッサージする
指で口のまわりをマッサージする。
④頬のストレッチをする
片手で口元を押さえ、もう片方の手で顔の筋肉を頬の下側から頬骨から目尻の方向に引っ張る要領で伸ばす。10回位実施する。
⑤首のマッサージをする
顎の下から耳の方向にむかって指で軽く押さえる。
顔のマッサージ、頬のストレッチ、首のマッサージは合計10分間程度、2~3回/日実施します。
ミラーバイオフィードバック療法
ミラーバイオフィードバック療法の目的は、口を動かしたときに眼が閉じてしまう病的共同運動の予防です。
口を動かす練習ではなく「眼を閉じない」を優先し、常に鏡で確認しながら実施するリハビリです。
「ウー」と口をとがらせる運動、「イー」と歯をみせる運動、「ブー」と頬を膨らませる運動をゆっくりと繰り返して練習します。
自宅で毎日、朝15分、夕15分の計30分程度練習します。
まぶたを開く運動と温熱療法
表情筋に力を入れずにまぶたを開く運動です。顔面神経麻痺の発症後2か月程度から開始されます。
3秒間まぶたを開く運動10回が1セットです。3セット/日を目安にします。
また、温熱療法は顔面の血流改善が目的です。リハビリの前に実施するとよいでしょう。
蒸しタオルを使って麻痺側を温めます。温タオルはやけどをしない温度にしましょう。
参考:森嶋直人『顔面神経麻痺に対するリハビリテーションの進め方』
日常生活のポイント
低周波マッサージや針治療は病的共同運動につながる可能性があるため、実施は避けます。
強く大きな顔面運動は避け、顔面の防寒や保温をしましょう。
ドライアイに対しては人口涙液やヒアルロン酸の点眼を活用します。就寝中に眼を閉じられず角膜が乾燥する場合は、眼にガーゼをあてて上からテープで固定する対策があります。
まとめ|末梢性の顔面神経麻痺に対するリハビリ方法
今回は末梢性顔面神経麻痺の症状、治療法、リハビリ方法についてお伝えしました。
末梢性顔面神経麻痺は、ストレスや疲労により免疫力が低下したときに、沈静化していたウイルスが再び活性化することで発症します。主な症状は表情が作れない、目が完全に閉じられないことです。
適切な早期治療を行えば、8割の患者さんが元の状態に回復できます。しかし一部の方では、後遺症として病的共同運動(異常な筋肉の動き)や顔面拘縮(筋肉の攣り)が残ることがあります。
そういった後遺症に対しては、リハビリが有効です。リハビリの方法には、表情筋のストレッチやマッサージ、鏡を使ったミラーバイオフィードバック療法があります。適切なリハビリを続けることで、後遺症の改善が期待できます。