多発性筋炎のリハビリに禁忌はある?ガイドラインに沿った運動療法の流れを解説
2025.01.06
多発性筋炎は、膠原病などによって筋肉が炎症を起こす病気です。筋肉に力が入りにくく動きづらくなったり、痛みを感じたり、疲れやすくなったりします。
こういった筋肉にまつわる病気に欠かせないのが、運動療法を始めとしたリハビリです。しかし、多発性筋炎については、他の病気とは違った観点が必要になります。多発性筋炎のリハビリは、何が違うのでしょうか?
今回は、多発性筋炎のリハビリ内容や禁忌について解説します。あわせて、リハビリ中の注意事項についても触れていきます。
目次
多発性筋炎の治療法とは?リハビリを始める時期についても解説
まずは多発性筋炎を発症した場合の治療法やリハビリについて解説します。
基本的には薬物療法が中心に
多発性筋炎では、基本的に薬物療法が中心となります。薬物療法の主な内容は、ステロイド系の内服薬や点滴です。
ただし、多発性筋炎で起こる症状はかなり多岐に渡り、すべての患者さんに対して内服や点滴のステロイドが効くというわけではありません。
免疫抑制薬(アザチオプリンやシクロホスファミド)の併用や、皮膚症状がある場合は局所ステロイド薬(塗り薬や湿布)治療が優先されます。
過度なリハビリ・運動療法は筋肉を痛める恐れも
薬物療法によって炎症が和らいだら、リハビリを行うこともあります。治療中に筋肉が縮み、筋力低下による廃用性症候群のおそれもあるためです。
しかし、過度なリハビリや運動療法・筋トレはさらに筋肉を痛める恐れがあります。そのため、リハビリ開始のタイミングが重要です。
「筋肉が衰えてきたから…」「早く日常生活に復帰したい」と焦ってしまう患者さんも多いです。多発性筋炎はそもそも筋肉を痛めてしまう病気です。負荷をかけるおそれのあるリハビリには慎重にならざるをえません。
リハビリを始めるタイミングは?
多発性筋炎でリハビリを始めるタイミングは、慢性期からです。急性期(痛みや炎症が激しい時期)はなるべく筋肉に負担をかけないようにしなければいけません。
リハビリ開始基準は、ステロイド投薬後に血清CK値が低下・正常値近くになってからとなります。
血清CK値とは、筋肉に含まれるクレアチニンキナーゼ(=CK)という酵素が血中に含まれる値です。本来筋肉にあるはずのものが血中にあるということは、筋肉の細胞が壊れてしまっていることを意味します。
薬物療法によって血清CK値が下がり正常な値になることは、CKが漏れ出さなくなったということを意味します。ここでようやく、リハビリを開始してOKになるのです。
【禁忌】多発性筋炎のリハビリでやってはいけないこと
多発性筋炎の薬物療法で症状が収まり始めると、リハビリを開始します。しかし、症状が収まったからといって勝手にリハビリを始めてはいけません。
ここでは、多発性筋炎のリハビリでやってはいけないこと=禁忌を解説します。
その1:自己判断で始めるのはNG
多発性筋炎のリハビリで一番やってはいけないのは「自己判断で始めること」です。多発性筋炎では、必ず医師の指示があってからリハビリを開始します。
リハビリ自体は、症状を改善するために必要です。しかし、過度な運動は症状を再発させたり、筋肉が壊れる原因になってしまったりします。
筋肉は、運動によって負荷をかけられると、筋肉自体が太くなろうとします。多発性筋炎の場合、太くなる前に炎症を起こしたり弱ったりしてしまうのです。
その2:筋力トレーニングは慢性期になってから
薬物療法を行っている最中は、基本的に筋力トレーニングを行いません。特に急性期(筋肉の炎症や症状が酷い時期)には、筋肉に負担をかけないようにします。
基本的にはステロイド療法が行われた後、観察しながら数ヶ月かけてゆっくりとステロイド量を減らします。その間はできるだけ安静にするのが基本です。
治療中は安静にしていることが多く、筋力低下が気になるかもしれません。しかし、まだステロイド量が多い時期に筋力トレーニングを始めると、症状が悪化するおそれがあります。
ステロイド量を減らす判断の邪魔になってしまう場合もあるため、慢性期になってからリハビリをしましょう。
その3:専門家の指示に従った運動量を守る
多発性筋炎のリハビリをする際は、医師や理学療法士の指示に従って運動しましょう。早く治りたいからといって、負荷をかけすぎるのは禁物です。
ただし、多発性筋炎を発症した患者さんに対してどの程度の負荷が適切なのかは、まだ明らかになっていません。それでも慢性期においては「リハビリをしたほうが良い」とされています。
【参考:独立行政法人国立病院機構宇多野病院関西脳神経筋センター「炎症性筋疾患のポイント―多発性筋炎・皮膚筋炎を中心に―」】
多発性筋炎の治療で行われるリハビリ内容は?
ここでは、多発性筋炎のリハビリの内容について解説します。
リハビリ1:有酸素運動
有酸素運動とは、筋肉を動かすために酸素を必要とする運動です。具体的にはウォーキング・ジョギング・自転車・水泳などが該当します。
多発性筋炎のリハビリでは、主にウォーキングが挙げられます。急性期の安静によって歩く力が弱まっている可能性が高いため、最初は徐々に距離を伸ばして歩けるようになることを目的とします。
目安は「疲れない程度」です。1日15分~30分程度のウォーキングを週3回ほど、息が上がらない程度のペースで実施します。
リハビリ2:負荷運動(筋トレ)
負荷運動とは、簡単にいうと筋力トレーニング(筋トレ)を指します。筋肉を大きくし、筋力を上げることが目的です。
ただし、多発性筋炎においては負荷の大きい運動はなるべく避けたほうが良いというのが通説です。筋肉は負荷をかけると大きくなりますが、炎症を起こすおそれもあるためです。
多発性筋炎の患者さんは、筋肉に炎症が起きやすい状態です。そのため、多発性筋炎の負荷運動では補助具を利用したり、低負荷(自重など)のトレーニングを行います。
リハビリ治療中に注意しておきたいこと
有酸素運動も負荷運動も、どちらも注意したいのが「運動負荷をかけすぎない」ことです。歩きすぎは足の筋肉を痛めるおそれがあり、負荷をかけすぎれば炎症を起こすおそれがあります。
慢性期に入ったと診断されても、なかなか運動負荷が上げられず焦る方も多いです。しかし、多発性筋炎はゆっくりと改善させる病気です。焦らないようにしましょう。
まとめ:多発性筋炎のリハビリは専門家の指示に従って行おう
多発性筋炎は、筋肉に炎症が起こり、筋力が低下する病気です。この病気では、適切なリハビリを行うことで筋力の回復や体力の向上が期待できます。しかし、症状が進行して炎症や痛みが強い場合は、まずは安静にすることが最優先となります。
リハビリを始めるタイミングは、病気が「慢性期」に入ったと医師から診断されてからです。それまでは、薬物療法などで炎症を抑え、少しずつ症状を改善させる治療が行われます。急いでリハビリを始めてしまうと、筋肉や関節に負担がかかり、さらに炎症が悪化する恐れがあるため、焦らず医師の指示をしっかり守ることが大切です。
多発性筋炎の治療中は、どうしても筋力が低下してしまいます。このため、「早く元の体に戻りたい」と思って無理に運動をしてしまう人もいるかもしれませんが、これは禁物です。自主的なリハビリを行うことで、炎症が再発する可能性があります。安全に回復するためには、リハビリの内容やペースを医師や理学療法士と相談しながら進めることが重要です。
リハビリが始まった後は、筋力を少しずつ取り戻すために、ストレッチや軽い運動などからスタートするのが一般的です。例えば、寝た状態で足をゆっくり動かしたり、椅子に座った状態で体を軽く伸ばしたりするような運動が推奨される場合があります。どのような運動をするかは、必ず専門家の指導を受けて決めてください。
この病気は治療に時間がかかりますが、焦らず、できることから一歩ずつ進めていくことが大切です。小さな進歩を喜びながら、医師や家族と協力して、前向きにリハビリを続けましょう。