
ミラーセラピーの概要と効果…脳卒中の後遺症に対するアプローチ法について
2025.05.23

脳卒中の後遺症に対する治療方法で「ミラーセラピー」と呼ばれる方法があります。ミラーセラピーは、幻肢痛に対する治療法として開発されました。現在は、脳卒中のリハビリ方法の1つとして使われており、中程度のエビデンスも報告されています。
特に脳卒中後遺症の上肢機能改善に効果が示されており、運動機能、感覚障害、痛みに対する効果が期待されます。今回は、ミラーセラピーの概要と効果、注意点まで解説します。
目次
ミラーセラピーとは?脳卒中後遺症に対する効果を解説

ミラーセラピーとは、脳卒中後遺症の治療方法の1つです。回復が難しいとされる上肢機能に対する効果が報告されています。脳卒中後遺症に対して、ミラーセラピーがどのように働きかけるのか?効果や概要について解説します。
ミラーセラピーとは
ミラーセラピーとは鏡を利用して、麻痺側を自分で動かしてるように錯覚させる治療です。脳に「視覚刺激」を与える事で、手を動かす脳神経の活性化を狙います。
脳卒中では、自分の手や指が思うように動かせなくなります。「動かし方がわからない」という人のヒントになるのがミラーセラピーです。
具体的には、麻痺側の腕を鏡の裏に隠し、非麻痺側の腕を鏡に映して動かします。動きにくくなっている腕の位置に非麻痺側の腕が映るよう工夫するのがポイントです。
脳卒中に対するミラーセラピーの効果
ミラセラピーは、脳卒中のリハビリで使われることが多いです。ミラーセラピーにより、運動障害や感覚障害、痛みに効果があると言われています。「運動ができた」という肯定的な体験もミラーセラピーによって得ることができます。
ミラーセラピーは単体で行うよりも、他の治療と組み合わせることが重要です。準備運動として行うことで先行刺激により、リハビリ効果が高まることも報告されています。
ミラーセラピーのエビデンスについて
ミラーセラピーは、上肢に対してはエビデンスが報告されています。2021年発刊された理学療法ガイドラインに、「上肢を使用するADLの改善にミラーセラピーを行うよう提案する」と記されており、上肢機能改善に中程度のエビデンスがあると言えます。
しかし、下肢機能と痛みに関してはエビデンスが弱い現状があるので覚えておきましょう。
参考:J-STAGE理学療法学「脳卒中片麻痺患者の手指運動機能障害に対するミラーセラピーの効果」
ミラーセラピーの方法を部位別に解説!メリット・デメリットは?

ミラーセラピーは上肢機能改善に効果的です。エビデンスレベルは弱いですが、下肢機能改善に対するポジティブな報告もあるので、リハビリ方法を解説します。ミラーセラピーはメリットだけでなく、デメリットも存在するため、併せて説明します。
上肢に対するミラーセラピーの方法
上肢に対するミラーセラピーでは、さまざまな方向に手指や手関節を動かします。関節運動以外にも、実際の生活に関連する動きを行うのも効果的です。
<上肢に対するミラーセラピー>
- 手関節(掌屈、背屈、撓屈、尺屈)
- 前腕回内、回外
- 手指の屈曲、伸展
- 物品把持、テーブル拭き、タオルたたみなど
リハビリ場面では、非麻痺側の動きに合わせてセラピストが麻痺側を動かします。患者本人も鏡を見ながら動かすイメージを持つことが重要です。
下肢に対するミラーセラピーの方法
下肢に対するミラーセラピーでは、足関節や足趾の運動を行います。下肢に対するミラーセラピーによって歩行速度の改善や、バランス能力向上が期待できます。
<下肢に対するミラーセラピー>
- 足関節(背屈、底屈、内反、外反)
- 足趾(屈曲、伸展)
足関節の動きが改善すると、歩くのが楽になり、転倒予防にも繋がるのでおすすめです。
ミラーセラピーのメリット・デメリットについて
ミラーセラピーは科学的根拠が高い治療法ですが、デメリットもあります。メリット、デメリットをまとめました。
<ミラーセラピーのメリット・デメリット>
- 重度の運動障害でも実施可能
- 自宅で簡単に実施できる
- 足にも使える
- 集中力が続かない人には向かない
- 疲れを感じやすい
ミラーセラピーは集中力が必要な治療法なので、向き、不向きがあります。「運動のイメージが得意」、「ミラーセラピーが苦にならない」という人に向いている治療です。
ミラーセラピーを自宅で行う注意点は?自費リハビリの選択も

ミラーセラピーは自宅でも手軽に行えるリハビリ方法です。「脳卒中発症から6ヶ月経っても効果があった」という報告もあるため、自宅で行うのも効果があります。ミラーセラピーの注意点とリハビリが受けられるサービスを解説します。
自主トレ時の注意点
ミラーセラピーを自宅で行うときは、いくつか注意点があります。自主トレーニングの効果を最大限発揮するために、以下の項目を意識しましょう。
<自主トレの注意点>
- 集中できる環境で行う
- 運動のイメージが重要(何となく続けない)
- 疲れたら休む
- 鏡の置く位置に気を付ける
自宅でミラーセラピーを行うときは、鏡の位置に注意し、集中できる環境で行いましょう。イメージが重要なトレーニングなので、休憩を挟みながら行ってください。
介護保険を使ったリハビリサービス
ミラーセラピーを自分でやるのは難しいと感じる人も少なくないと思います。ミラーセラピー専門専門家の元で行うのが確実なので、リハビリサービスを利用しましょう。
介護保険を利用すれば、「通所リハビリ」や「訪問リハビリ」を利用できます。介護認定が降りてない人は、市町村の窓口に相談してリハビリサービスの利用を検討しましょう。
自費リハビリの選択
介護保険を利用したリハビリでは、生活機能に重きが置かれ、機能回復に十分な時間が使えない事も多くあります。「徹底的に上肢や下肢の機能を改善したい」という時は、自費リハビリの選択も検討しましょう。
あなたの要望に応じたオーダーメイドのリハビリを受けることができます。ミラーセラピーを試したい人は、自費リハビリの選択も覚えておきましょう。
まとめ|脳卒中の後遺症改善を目指す「ミラーセラピー」

ミラーセラピーとは、脳卒中(脳の血管が詰まったり破れたりして起きる病気)の後に起こる後遺症を改善するためのリハビリの方法のひとつです。
ミラーセラピーでは、鏡を使って、動きが良いほうの手や足を動かし、その動きを鏡に映して見ます。これによって脳は、動きが難しいほうの手や足が動いているように感じます。その結果、脳の働きが活発になり、手や足が少しずつ動かしやすくなることがあります。
特に、腕や手などの上半身の動きを良くする効果については、科学的にも一定の根拠(エビデンス)があり、多くの人に効果があることが証明されています。
足(下半身)についても、腕ほど強い根拠はまだありませんが、改善したという報告がいくつかあります。そのため、ほかのリハビリ方法(筋力トレーニングや歩行練習など)と組み合わせて使うことで、さらに効果を高めることができます。
ただし、ミラーセラピーはすべての人に効果があるとは限りません。人によっては、鏡に映した動きを見ても、うまく脳が反応しない場合もあります。無理をして行う必要はないので、まずはリハビリの専門家に相談して、アドバイスをもらいながら行ってみましょう。