脳梗塞を発症後も歩ける?歩けるようになるまでのリハビリの内容とポイント
2024.11.01
脳梗塞とは、脳の血管の一部が詰まってしまい、脳細胞に十分な血液が届かずダメージを受けた状態のことを言います。血液の流れが滞ると、脳の細胞は酸素やエネルギーが不足し、最終的には死んでしまいます。一度死んでしまった脳細胞は、残念ながら再生することはできません。
脳細胞がダメージを受けると、後遺症が残る場合が多く、症状によっては歩くことが困難になることもあります。
そこで今回は、脳梗塞後に再び歩けるようになるまでのリハビリの内容と、回復を促進するためのポイントについて解説していきます。
目次
脳梗塞で歩けなくなるのはなぜ?回復の見込みは?
脳梗塞が起こると脳の細胞が壊死して損傷した部位や範囲、程度によってさまざまな障害が残る場合があります。脳梗塞を発症した約7割の方がなんらかの後遺症が残ると言われていますが、回復の見込みはあるのでしょうか。
歩行に支障をきたす後遺症
- 運動障害
脳の運動を司る部位の損傷により片麻痺や半身麻痺が起こり、手足のコントロールが利かなくなる。歩く、階段を上る、箸を持つなど日常生活のさまざまな行動がしにくくなる。
- 感覚障害
感覚を司る神経は運動神経と密接な関係があり、片麻痺を起こした場合、同じ側に感覚障害を起こす場合が多い。手足の痺れ、物に触っても感覚がない、温度を感じないなど感覚が鈍感になる。
- 構音障害、失語症
脳の言語を司る部分が損傷すると、言葉や文字の理解ができなくなる場合があり、喋れない、文字が書けないなど、意思の疎通が難しくなる。
- 高次脳機能障害
大脳皮質など脳細胞の物理的な損傷により、高次脳機能障害が引き起こされ、脳の機能が低下して、さまざまな神経や心理学的な障害が残る。
上記の中でも運動障害や感覚障害を生じた場合、歩行に支障をきたします。
回復の見込み
これまで意識せずともできていた「歩く」という動きができなくなり、精神的なショックが大きく不安になる方も多いと思います。
しかし厚生労働省の調査によると、脳梗塞発症者の約7割は発症から3か月後には自宅で生活し、介助を必要とせず自身で歩くことができる状態まで回復しています。このことから、後遺症が残ってもリハビリにより歩けるようになる見込みはあると言えます。
どのようなリハビリを行なう?早期のリハビリが大切!
脳梗塞発症後は一人で歩けるようになるまで、装具を用いながら段階的にリハビリを進めていきます。また後遺症を軽減したり回復を早めるためには、早期にリハビリを開始することが重要です。
リハビリは3つの時期に分けて進める
後遺症のリハビリは3つの時期に分けて進められます。時期によってリハビリの内容やリハビリを行なう場所が異なります。
- 【急性期】
時期:発症から約2週間
場所:発症時に入院した病院
内容:筋肉の衰えや関節が硬くなるのを防ぐため、寝返り・起き上がり・手足の運動などをベット上で行う。
- 【回復期】
時期:発症から約3か月~6か月
場所:リハビリテーション専門の病院や病床
内容:日常生活の自立を目指し、歩行・着替え・食事などの訓練を行なう。
- 【生活期(維持期】
時期:発症から約6か月以降
場所:自宅
内容:回復した機能を維持しながら日常生活を送るため、歩行・着替え・食事などの訓練を行う。
早期のリハビリが回復も早める
かつては脳梗塞発症後、体をすぐに動かすと症状が悪化すると言われていました。しかし寝たきりの期間が長くなると、筋肉の萎縮や関節が固まって動きが悪くなったり、骨が弱くなってしまうこともあります。体力や認知機能の低下も懸念されるため、現在では発症直後から一刻も早いリハビリが推奨されています。
特に48時間以内に行うことにより、後遺症の症状が軽減されたり、誤えん性肺炎などの合併症の予防、脳梗塞による死亡の危険性を下げることが明らかになっています。
装具を用いて行なう歩行訓練
運動障害や感覚障害がある方は、歩行時の足のつき方や足の踏み出し方がわからなくなっていることが多いです。また麻痺がある場合には、脳から筋肉を動かす信号がうまく伝わらず、思うように体を動かすことができません。そこで装具を使用しながら段階的なリハビリを行います。
- 足先から太ももの付け根まで覆う固定性の高い長下肢装具を着用し、介助を要した歩行訓練を行なう。
- 下肢の支持性が増してきたら、足先から膝下にかけて装着する固定性の低い短下肢装具へと少しずつ移行する。
- 安定してきたら装具を着用した状態で、介助を要さず一本杖や四点杖を使用して歩行訓練を継続する。
- 帰宅後は屋内だけでなく屋外への外出も考えられるため、屋外の不整地での歩行訓練も行い、退院に向けて調整していく。
参考:医療法人賛健会城内病院「脳梗塞のリハビリテーションの基本動作訓練と歩行訓練」
生活期における自宅でのリハビリにおけるポイント3つ
発症から約6か月を過ぎると「生活期」となり、自宅で生活をしながらリハビリを行ないます。そこで自宅でのリハビリにおいてのポイントをお伝えします。
ポイント①生活環境を整える
後遺症がある場合、自宅においてこれまでと同じように生活することは困難な場面も出てきます。そのため生活期に入る前の回復期の段階で、下記のように生活環境を整えておくことが大切です。
- トイレやバスルームに手すりを設置する
- 玄関などの段差がある箇所に踏み台やスロープを設置する
- 歩行の妨げになる家具を移動する
- フローリングで滑らないよう絨毯(じゅうたん)や滑り止めを敷く
手すりやスロープは福祉用具としてレンタルすることも可能です。自宅をリフォームするのは費用や時間がかかるため難しいという方は、レンタルを検討してみましょう。
ポイント②周囲のサポートが必要
自宅でのリハビリを安全に行うためには、家族のサポートが不可欠です。怪我をしないよう見守ったり、リハビリの手助けをしながら前向きな言葉をかけてあげることで、リハビリを継続するモチベーションにも繋がります。
また普段の生活においては、本人のできることとできないことを把握した上で、必要なときだけ手を貸してあげるようにしましょう。日常生活そのものもリハビリの一部となるため、不自由そうだからと何もかも手伝うことは返って回復の妨げになります。
ポイント③継続が大切
脳梗塞による運動機能における後遺症は、発症してから3~6か月まではリハビリにより顕著に回復しますが、その後はあまり変化が見られないことから「6か月の壁」と言われていました。
しかし最近では6か月以降もリハビリを続けることにより、回復が見込まれることが示されています。回復の速度が急性期よりも緩やかになるため、成果を実感することが難しいかもしれませんが、歩けるようになるためには長期的にリハビリを継続することが大切です。
まとめ|脳梗塞後の歩けるようになるまでのリハビリ
脳梗塞とは、脳の血管が詰まってしまい、脳に十分な血液や酸素が届かなくなる病気です。これにより、体をうまく動かせない「運動障害」や、感覚が鈍くなる「感覚障害」が起こり、歩くことが難しくなる場合があります。しかし、心配しないでください。実は、脳梗塞を発症した人の約70%が、発症から3か月後には一人で歩けるように回復しています。つまり、リハビリを続ければ歩けるようになる可能性は十分にあるのです。
歩くためのリハビリでは、最初は装具や杖などの道具を使って、少しずつ練習していきます。そして、最終的には誰の助けも借りずに一人で歩けるようになることを目指します。さらに、回復を早めたり、発症前の元気な体に近づけるためには、脳梗塞が起きてから48時間以内にリハビリを始めることがとても大切です。
また、脳梗塞を発症してから6か月を過ぎると、症状の回復がゆっくりになり、リハビリの成果を感じにくくなることがあります。でも、そこであきらめずにリハビリを続けることで、これまでに回復した体の機能を維持したり、さらに良くすることが期待できます。そのため、長い時間をかけてリハビリを続けることが大切なのです。