脳性麻痺のリハビリにおける役割と意義とは…「神経のつなぎ替え」を狙うリハビリ計画
2023.09.12
脳性麻痺は、胎児期に脳神経が損傷することによって起きる症候群です。運動障害や摂食障害などが主な症状ですが、これらの障害はリハビリで改善できるといわれています。
損傷した脳神経を修復することはできません。ですが、脳性麻痺の症状は改善できるといわれています。長期間のリハビリによって、脳神経回路の「つなぎ替え=可塑性」が期待できるためです。
そこでこの記事では、脳性麻痺のリハビリの役割と意義について解説します。また、リハビリによる脳神経のつなぎ替え(可塑性)についても解説します。
目次
脳性麻痺はリハビリで治る?リハビリを続ける意義とは
まずは脳性麻痺の基礎的な情報と、リハビリを続ける意義について解説します。
脳性麻痺は病気ではなく「後遺症」
脳性麻痺とは、胎児が母親の胎内にいるときに起こる症候群です。胎児の脳神経細胞が何らかの原因で損傷してしまい、出生後に運動機能障害などを引き起こしてしまいます。
成人でも脳卒中・脳梗塞や外傷などで脳神経を損傷することがあります。これらの病気や外傷によって損傷した脳神経は治りません。
成人の脳神経損傷と同様に、胎児期で損傷した脳神経も治りません。そのため、脳性麻痺は病気ではなく一種の「後遺症」といえるでしょう。
脳性麻痺は、以下のような4つのタイプに分類されます。
- 痙直(けいちょく)型…筋肉がこわばる、手足が張って固くなる
- アテトーゼ型…自分の意思と関係なく手足・体幹が動く
- 失調型…体のバランスが取りにくい
- 混合型…痙直・アテトーゼ・失調の3つのうち、2つ以上が組み合わさる
脳性麻痺は後天的ではなく先天的なため、発達の遅れや成長度合いに障害が起きる可能性が高いです。また、痙直型で呼吸器障害を起こしている場合、出生直後から命の危機に晒されることとなってしまいます。
傷ついた脳神経は元に戻らないが…
脳性麻痺は治ることがないといわれています。脳神経細胞が損傷しており、元には戻らないからです。
ただし、リハビリで運動機能障害を改善することは可能です。一部の脳神経を損傷していても、正常な脳神経は残っています。その正常な脳神経をリハビリによって刺激し、損傷した脳神経の代わりになる仕組みを利用するのです。
失った脳神経を補う働きのことを、脳科学分野においては「脳の神経可塑性」と呼んでいます。
脳性麻痺のリハビリで「神経のつなぎ替え現象」は起きる?
脳性麻痺のリハビリでは、自ら脳神経回路を繋ぎ替える「神経可塑性」を目標に行います。しかし、そもそも神経可塑性とはどういうものなのでしょうか?
ここでは、脳神経のつなぎ替え現象の仕組みである「脳の神経可塑性」について解説します。
神経回路は「再編」される
近年、脳科学分野では、損傷した脳神経の周囲に新たな神経回路ができる現象が確認されるようになりました。いずれもリハビリによって引き起こされる現象です。
例えば、脳梗塞や脳卒中などにより前頭葉の脳神経が損傷すると、運動機能が低下して手や足がうまく動かせなくなってしまいます。
しかし、動かなくなった方の手や足に対して長期間継続的なリハビリを行うと、少しずつ動くようになってきました。
この現象は、残った脳神経が損傷した脳神経を補うため、神経回路のつなぎ替えが行われたことから起きたと考えられています。
脳神経回路の再編メカニズム
正常な脳神経が失った神経回路を補うことを「脳の神経可塑性」と呼びます。ただし、この現象はただ安静にしているだけでは起こりません。
また、正常な脳神経で動く範囲だけを動かすだけでも起こりません。動かなくなってしまった方の手足を動かし刺激することで、脳神経のつなぎ替えが起こるのです。
そのため、長期間のリハビリによってつなぎ替えを促進することが必要となります。
きっかけは傷ついた脳神経が必要な動きをすること
脳性麻痺において神経のつなぎ替えを促進するには、傷ついた脳神経によってどの機能が失われたのかをチェックしなければいけません。
そのためには、MRIなどの検査だけでなく成長に応じて「何ができないのか」「どの機能の発達が遅れているか」をみていく必要があります。
また、いざリハビリを始めたとしても数年に及びます。長く見守っていくことが大事です。
参考:東洋大学「医学博士に聞く、記憶力・学習力アップに影響する脳機能「シナプス可塑性」とは?」
神経のつなぎ替えを狙うには…脳性麻痺のリハビリ計画の意義
脳性麻痺で失われた機能を取り戻すリハビリは、計画的に行う必要があります。ここでは、脳性麻痺のリハビリ計画について解説します。
「どの機能が損なわれているか」の判断が重要
脳性麻痺でどんな症状が出ているのかは、基本的に診察所見と画像検査から診断されます。
- 発達の遅れ
- 筋緊張の有無
- 姿勢反射異常の有無
- 頭部MRIやCT検査などの画像検査
診断結果から、どんなリハビリやサポートが必要なのかを医師と理学療法士が判断し、リハビリ計画をたてます。
リハビリ計画は必ず長い目で見ること
脳性麻痺のリハビリは、長い目で見ることが必要不可欠です。また、筋肉の拘縮や緊張が進んでいる場合、整形外科で注射などの薬物療法を行うこともあります。
脳性麻痺はてんかんや嚥下障害などの合併症を引き起こす可能性があるため、常に見守りながらリハビリを行わなければいけません。合併症を引き起こした場合は、小児外科・小児科が対応にあたります。
そのため、脳性麻痺のリハビリでは整形外科・小児科・小児外科・リハビリテーション科など複数の科目の医師や看護師が、何年にも渡って連携することが多いです。
病状によってはリハビリ入院する場合も
症状によっては、精密検査や治療を行うため数週間入院しながらリハビリを行う場合があります。
入院と聞くとネガティブな印象を受けるかもしれませんが、リハビリ入院にはいくつかのメリットがあります。短期間で集中的なリハビリを受けられるうえ、医師・看護師・理学療法士らが連携を取りやすくなるのです。
また、同じく脳性麻痺や障害を抱えて入院している子供やその保護者と知り合うきっかけにもなります。同じ状況の家族とのコミュニケーションは、不安感や孤独感の解消にもつながるでしょう。
まとめ:脳性麻痺はリハビリと長期間向き合う覚悟が必要に
脳性麻痺の原因は、胎児期に脳神経を損傷してしまったことに起因します。そのため、脳性麻痺が治ることはないとされています。
しかし近年の研究では、リハビリを続けると正常な脳神経が損傷した脳神経の神経回路を補い、運動機能の改善が期待できることがわかりました。
このような脳の神経可塑性が判明した今、脳性麻痺のリハビリは重要なものとなりました。しかし脳神経のつなぎ替えには、何年ものリハビリが必要に。子供の病状や合併症を見ながら、医師や理学療法士・作業療法士と協力してリハビリを続けていくことが大切です。