球脊髄性筋萎縮症のリハビリは効果がある?病気の仕組みや治療法も解説
2024.02.12
球脊髄性筋萎縮症(きゅうせきずいせいきんいしゅくしょう)で身体の動きづらさを感じている方にむけて、リハビリの効果や病気の仕組み、治療方法についてお伝えします。働き盛りの年齢の男性が発症しやすく、症状が生活に影響している方も多いのではないでしょうか。
病気の基本やリハビリのポイントを知ることで球脊髄性筋萎縮症の治療選択につながり、生活しやすくなる道筋が見えてきます。
目次
球脊髄性筋萎縮症とは?病気の仕組みや症状について
球脊髄性筋萎縮症(きゅうせきずいせいきんいしゅくしょう)は遺伝性の病気です。遺伝の仕組みや症状、進行の経過について説明します。病気について知れば、生活の方向性を見出しやすくなります。
球脊髄性筋萎縮症とは
球脊髄性筋萎縮症(SBMA)は、脳の一部である脳幹や脊髄の運動神経細胞の障害によって起こる病気です。手足を動かすときに脳から出された指令は脊髄、末梢神経を介して筋肉に伝わります。脊髄の運動神経細胞が障害を受けると筋肉が萎縮してしまうのです。
球脊髄性筋萎縮症は男性ホルモンを受け取る遺伝子の異常が原因と考えられています。親から子どもに変異遺伝子が遺伝し、男性が発症。女性は無症状か生活に支障がない軽度の運動機能低下に留まります。
父親が発症者の場合、男の子は健常者、女の子は全員保因者です。母親が保因者の場合、男の子の50%が発症者、女の子の50%が保因者です。保因者とは変異遺伝子をもった人です。
【症状】顔や手足の筋肉がやせて力が入らない
球脊髄性筋萎縮症の主な症状は次のとおりです。
・話しにくい
・顔、舌、手足の筋肉がやせて力が入らない
・食事のときにむせやすい
・四肢腱反射の低下
・こう丸萎縮、乳房が大きくなる
・血清クレアチニンキナーゼ高値、血糖値の異常、肝機能値の異常
手足のふるえや筋肉のぴくつきが先行する場合があり、症状が進行すると嚥下障害や呼吸機能不全を起こしやすくなります。
球脊髄性筋萎縮症はどのように進行する?
30~60歳の発症が多く、10年程度でむせやすくなり、15年程度で車いす生活になるでしょう。症状の進行は個人差があります。誤嚥性肺炎を含む呼吸器感染症が直接の死因であることが多いです。
日本には球脊髄性筋萎縮症の患者様が、人口10万人あたり1~2人程度いると推定されています。
球脊髄性筋萎縮症…リハビリの効果や治療方法を解説
球脊髄性筋萎縮症の検査や診断基準、治療方法について説明します。薬による治療と並行したリハビリの必要性が分かります。
検査と診断基準|医療費助成が受けられる
球脊髄性筋萎縮症の検査は主に4種類です。
➀神経所見…医師が症状を診察。
②血液検査…血清クレアチニンキナーゼ高値、肝機能(GOT・GPT)高値を確認。
③針筋電図検査…筋肉に針をさして検査する。筋収縮から得られる電気活動を記録。運動神経障害を示す波形が現れる。
④遺伝子検査…血液中の白血球から遺伝子を取り出し、繰り返し配列の延長について調べる。
神経所見、臨床・検査所見、遺伝子診断など所定の診断基準を満たし、重症度分類の結果もふまえて医療費助成対象か決まります。
【治療方法】球脊髄性筋・萎縮症
球脊髄性筋萎縮症の根治療法は確立していません。
リュープロレリン酢酸塩による男性ホルモン抑制治療が2017年に承認されています。低下した筋肉を改善する効果はない一方で、クレアチニンキナーゼ値や嚥下障害が改善する可能性があります。12週に1回、皮下注射投与が基本です。リュープロレリン酢酸塩は性機能低下や抑うつの副作用があるため、治療適応は医師が慎重に判断します。
耐糖能異常や脂質異常症など合併症の治療も行います。
また、HAL®医療用下肢タイプによる歩行運動リハビリが保険適用です。
リハビリの効果はあるの?
名古屋大学大学院医学系研究科のグループは、発症前のマウスが軽めの運動を続ける実験をしました。運動の結果、球脊髄性筋萎縮症による運動機能の低下が緩やかになったと報告しています。生存期間が延長し、病気の原因である異常タンパク質が溜まりにくくなったのです。
マウスは軽めの運動を1時間/日、5日/週、4週間続けました。マウスの結果はそのまま人に当てはめられませんが、患者様の病状に応じた運動が重要だと示しています。
球脊髄性筋・萎縮症…リハビリのポイントとHAL®の効果
着用型ロボット(HAL®)を使用した球脊髄性筋萎縮症のリハビリが注目されています。ポイントを知ることで患者様に合ったリハビリの選択に役立ちます。
リハビリのポイント|球脊髄性筋萎縮症
球脊髄性筋萎縮症のリハビリとして、歩行訓練、基本動作訓練、股関節や膝関節の可動域訓練が行われます。必要に応じて嚥下障害のリハビリも実施。病気の進行を緩やかにし、筋力や活動性低下に伴う廃用の予防や、精神的な安定を目的としています。安全性や負荷を考慮したリハビリが重要です。
球脊髄性筋萎縮症は神経難病のひとつです。根治療法がなく進行する神経難病において、リハビリは身体の動きを改善しながら、廃用による二次的な問題を予防します。
発症初期は在宅生活を続けながらリハビリを行い、健康増進や日常生活の自立が目標です。症状の進行に応じてリハビリ内容を追加します。
入院による短期集中リハビリで廃用症候群の改善、杖や歩行器などの導入や療養環境の整備を行うこともあります。
HAL®|着用型ロボット使用のリハビリ
HAL®はリハビリ用に開発された動作をアシストする着用型ロボットです。患者様の「動きたい」という意思を感知して、皮膚表面に貼り付けた電極を通して信号を読み取り、立ち座りや歩行をアシストします。電極は太ももの付け根、臀部、膝の前後面などに貼ります。
HAL®を装着した状態で、立ち上がり、立位、歩行などのリハビリを実施。9回を1クールとし、約1時間/回のリハビリが基本です。入院、外来のどちらで行うかは、医療機関によって異なります。外来の場合は週3回程度のリハビリで効果が期待できます。
患者様によっては、歩行距離がのびる、歩く速度が速くなる、などの効果を感じるでしょう。
治療効果判定のためにHAL®使用前後に身体計測、筋力測定、歩行評価を実施します。
参考:独立行政法人国立病院機構新潟病院「最新のサイバニクス技術(HAL医療用下肢タイプ)を用いたリハビリ」
球脊髄性筋萎縮症のリハビリに関するまとめ
今回は球脊髄性筋萎縮症について、病気の症状や治療方法、リハビリのポイントをお伝えしました。
球脊髄性筋萎縮症(きゅうせきずいせいきんいしゅくしょう)は男性のみが発症する遺伝性の病気です。話しにくい、顔や手足の筋肉がやせて力が入らない、食事のときにむせやすいなどが主な症状です。
リュープロレリン酢酸塩による男性ホルモン抑制治療、HAL®医療用下肢タイプによる歩行運動リハビリが保険適用されています。
根治療法がなく進行する神経難病において、廃用による二次的な問題を予防するリハビリは重要です。HAL®は脳神経や筋系の機能低下で身体が動かしづらい患者様の機能改善を行います。