小脳の疾患「失調」とは?麻痺との違いを理解して有効なリハビリを。
2023.12.01
脳卒中の後遺症で最も有名なのは「麻痺」ですが、脳内の発症部位によっては「失調」という症状が混在することがあります。中でも小脳の梗塞や出血で起こりやすい身体障害が失調です。
小脳の機能を知ることで失調がどのような状態なのか分かるでしょう。さらに、失調と麻痺ではリハビリのアプローチも異なります。両者の違いを正しく理解することで、効果的なリハビリへと繋げることが重要です。
体を動かすことが億劫になり活動量が減少してしまうと、様々な悪循環が起こります。
正しい知識のもとリハビリに取り組み、体の機能を向上させましょう。
目次
〔脳卒中〕小脳の失調とはどのような状態?基本的知識
小脳の疾患で起こる失調とはどのような状態なのでしょうか?その原因は遺伝的要因から後天的なものまで様々ですが、脳卒中における脳出血が良く知られています。
小脳の機能や小脳出血の原因を知り、正しいリハビリに取り組む準備をしましょう。
小脳の機能を知る…運動を調整・修正
小脳は後頭葉(大脳)の下、脳幹の後ろに位置しています。
小脳の大きな機能は以下の2つです。
- 運動調整
- 姿勢制御
小脳は、実際に動いている間に運動を修正・調整してくれる機能を持っています。
大脳皮質で企画された運動の情報が小脳に入り、運動が行われた手足の感覚が脊髄経由で小脳に入るのです。この2つの情報を比較して、企画と実際の運動にズレが生じていないかを修正・調整してくれる役割を担っています。
修正・調整に至るまでに、大脳皮質や筋肉から正しい情報が送られてくることが重要なのです。筋肉から、①運動の速さ②運動の距離③運動の方向という3つの情報が正しく小脳に送られることで運動の誤差が生じなくなります。
小脳の疾患による失調での運動機能を向上させるためにはリハビリが有効的な手段となります。
小脳の疾患で失調が起こる原因
運動の失調を典型的な症状とするのが小脳の疾患ですが、小脳疾患とは何が原因で起こるのでしょうか?
その原因は大きく分けると以下の3つになります。
- 先天奇形
- 遺伝性運動失調症
- 後天性の病態
この中の後天性の病態として、脳卒中や非遺伝性の神経変性疾患(多系統萎縮症など)、全身性疾患、多発性硬化症などが存在します。また、アルコール依存症、甲状腺機能低下症、ビタミンE欠乏症などでも小脳機能障害を起こすことがあります。
これらの病因により小脳疾患になることで、運動機能の失調が現れるのです。
参考:小脳疾患の病因|MSDマニュアルプロフェッショナル版
失調とはどのような状況?
失調とは「筋肉をバランスよく協調的に活動することが困難な状態」をいいます。歩行時のふらつきや、手の震え、ろれつが回らない等の症状が起こり、自分で動かすことはできるのに運動の調整が効かない状態となるのです。
例えば、肘を曲げるために反対に肘を伸ばす筋肉が活動してしまう、小股で一歩を踏み出そうとすると大股になってしまう、スプーンで上手にすくえないといった症状があります。これらは運動失調と呼ばれ、小脳の梗塞や出血で起こりやすい身体障害の1つです。
小脳の疾患による失調と麻痺の違いとは?リハビリのポイント
小脳の疾患による症状では失調と麻痺が混在しているといわれています。失調の症状、麻痺の症状それぞれに対するリハビリのアプローチも異なるため正しく理解することが大切です。
体に与えるべき情報、するべき運動を知るためにも2つの違いを把握しておきましょう。
失調と麻痺の違い
運動は記憶や視覚からの情報をきっかけに脳で状況に合わせてプログラムされます。それが筋肉に指令を与えるのです。
その指令に対する反応の違いが、失調と麻痺の違いになります。
- 失調:脳からの指令に対して「筋肉は動くが、運動の強さ・速さなどのコントロールが難しい」状態
- 麻痺:「プログラムが上手くできず、筋肉が働かない、運動が起こせない」状態
失調は筋肉は働きますが、運動のコントロールが苦手になります。一方、麻痺は脳からの指令であるプログラムが上手くいかない結果、筋肉の活動が低い状態です。
〔失調と麻痺〕リハビリのポイント
失調へのリハビリのポイントは「手足の重さを感じてみる」ことです。
- 上肢に失調が出ている場合には、肩・肘・手関節の協調性を整える運動と指先の細かい動きを整える運動
- 下肢の場合には、足の動きの協調性を整える運動
このような運動を通して、手足を重く感じる、力を必要以上に入れてしまう、硬くなるという悪循環を減らしましょう。
また、失調でのリハビリは体幹を安定させることが重要です。まずは、寝たままや座ったままできる腹式呼吸から始めるなど出来ることから取り組みましょう。
一方、麻痺へのリハビリは、両手・両足の動作の練習をするということが中心となります。麻痺していない側の手足の動きの感覚を感じて、イメージと記憶を結びつけることが大切です。運動のプログラムを行いやすくするように、視覚からの情報を重要視するなど失調とは大分アプローチが異なります。
小脳の障害…失調に有効なリハビリとは?〔重要性と効果〕
では具体的に小脳の疾患である失調に有効なリハビリではどのようなものが行われているのでしょうか。
バランス感覚や体幹をつかさどる部位に失調をきたすと、リハビリに通うこと自体も難しいものになります。移動する必要のない自費訪問リハビリを利用するなど、自分に合った方法で取り組むようにしましょう。
小脳の障害には「フレンケル体操」
失調による運動障害の代表的なリハビリの1つは「フレンケル体操」です。
視覚情報をつかって120種類以上の運動を正しい動きができるまで反復して練習します。
寝た状態から座る・立つ・歩くというように、症状に合わせて難易度も調整でき、無理なく運動することが可能になります。
身体の動きを視覚を使って見ながら、運動のコントロールを反復して、練習することにより、脳内の神経回路を活性化し、失調の症状改善が期待されるリハビリです。
運動|失調のリハビリにピラティスを
失調にはピラティスも効果的といわれています。ピラティスでは呼吸を意識することによって体幹を鍛えることが可能です。また、失調によって不安定になった姿勢反応を再学習し、日常生活での動作を改善する効果があります。
専用のピラティスマシンを使用しているリハビリ施設もあるため、専門医の元で適切な指導を受けながら取り組むようにしましょう。
状態に合わせて自費訪問リハビリの活用
小脳の疾患による失調では歩行障害で外出が難しくなる場合もあります。小脳出血のリハビリ期間である180日を超えた退院後には、通所や訪問リハビリを利用することを余儀なくされます。
ふらつきなどの歩行障害で不安な方には自費訪問リハビリがおすすめです。理学療法士のスタッフが自宅まで伺い、リハビリの時間も自由に設定できます。
自費訪問リハビリでは、意識的に体幹でバランスを保てるようにする基本的なリハビリから、個人の症状・状況に合わせたオリジナルのプログラムが提供できます。
まとめ
小脳の疾患による失調は歩行障害など重大な後遺症の1つです。歩行に自信がなくなってしまった、外出することが減ってしまったという方も多いでしょう。
しかし、「前のように歩きたい」「元の生活がしたい」という気持ちがあれば、明確な目標を持ってリハビリに取り組むことができます。自費訪問リハビリでは、段階的な目標を定めて1つずつ達成していくお手伝いが可能です。
心と体の両方にアプローチすることで、体の機能を向上させてはいかがでしょうか。