舌下神経麻痺のリハビリ: 食べる楽しみを取り戻すための治療法と訓練法
2024.04.25
舌下神経麻痺による嚥下障害や構音障害は、リハビリを主体にアプローチします。障害の程度によっては、リハビリの効果が現れる可能性があります。
今回は舌下神経麻痺の症状にお悩みの方やリハビリを検討されている方にむけて、症状、治療法、リハビリ方法などについてご紹介。嚥下障害や構音障害のリハビリは、医師や言語聴覚士と相談しながら実施します。
適切な治療法やリハビリを実施できれば、食べる楽しみやコミュニケーションのしやすさにつながるでしょう。
目次
舌下神経麻痺はどのような症状が起きる?麻痺の原因も解説
舌下神経麻痺が起きる病気、嚥下障害や構音障害などの症状についてお伝えします。舌下神経麻痺の仕組みについて知れば、病気への理解が深まりますよ。
舌下神経麻痺とは…舌を動かす神経の麻痺
舌下神経麻痺とは舌を動かす神経の麻痺です。
舌下神経は舌を動かして食べ物の塊をとりまとめたり、のど(咽頭)の奥に送り出す動きを制御。舌の形を変える筋肉や前後左右に動かす筋肉を支配します。
舌の働きは食べ物をかみ砕く(咀嚼)、飲み込む(嚥下)、発声などです。他には、味覚や知覚を感じる機能もあります。
舌下神経麻痺の原因|病気や手術による障害
舌下神経麻痺の原因には、脳卒中、手術による神経損傷、筋萎縮性側索硬化症などがあります。
脳卒中は脳血管が詰まったり、出血することで血流が低下する病気です。舌下神経への血流が低下すると麻痺が起きて嚥下障害がでます。
頭蓋底腫瘍や脳の炎症などの病気でも、舌下神経麻痺は起きる可能性があります。
また、脳の腫瘍や外傷に対する手術、気管挿管による圧迫性神経障害も舌下神経麻痺の原因です。
筋萎縮性側索硬化症は運動神経が障害される病気です。顔、舌、のどの麻痺や筋萎縮が起きます。
舌下神経麻痺の症状|嚥下障害
舌下神経が麻痺すると次の症状が起きます。
・嚥下障害:食べ物をかむ、飲み込むことが困難。
誤嚥の原因になる。誤嚥とは食物や水分が誤って気道に入ってしまう状態で、誤嚥性肺炎を引き起こす。
・構音障害:話すことが困難になる。
構音障害は、ことばの理解や伝えたい内容ははっきりしているにも関わらず、音を作る器官や動きの問題で発音がうまくできない状態。
・舌が萎縮して薄くなる
・舌を突き出したときに、麻痺側に偏る
・舌のピクつき:筋萎縮性側索硬化症の特徴。繊維束性収縮と呼ばれる。
舌下神経麻痺でリハビリをする理由は?検査や治療法を解説
舌下神経麻痺による嚥下障害の検査、治療法、リハビリが求められる理由についてお伝えします。手術療法による身体の負担や、リハビリの重要性が分かります。
嚥下障害の仕組み|摂食嚥下の5期
舌下神経麻痺によって摂食嚥下障害になると、食物を飲み込もうとしたときにムセたり、食物が食道に入っていかずのどに残ります。
低栄養、肺炎、窒息などの原因になり、生命に関わる可能性があります。食べる楽しみや生活の質が下がる原因にもなるのです。
摂食嚥下とは、脳の摂食中枢と嚥下中枢からの指令で口やのどを動かして、水や食べ物を取り込み胃に送り込む過程です。
摂食嚥下は5期に分けられます。
➀先行期…食べ物を認知して口の中に取り込むまでの時期。
②口腔準備期…咀嚼して食塊が作られる時期。舌下神経が支配する。
③口腔送り込み期…食塊をのどの奥に送り込む時期。舌下神経が支配する。
④咽頭期…食塊をのどから食道へ送る時期。舌下神経や迷走神経が支配する。
⑤食道期…食塊が胃に運ばれる時期。
舌下神経麻痺による嚥下障害の評価と検査
舌下神経麻痺の原因を診断するために、MRIで脳腫瘍や脳卒中がないかをみます。がんや感染症が疑われるときは腰椎穿刺をする場合があります。
嚥下障害を推定するスクリーニング検査として、喉頭挙上検査、改訂水のみテスト、反復唾液嚥下テストなどを実施。
検査の結果、嚥下障害が疑われたら専門機器を使う検査に進むのです。
嚥下造影検査はもっとも信頼性が高い検査です。患者さんに造影剤が入った検査食を嚥下してもらい、嚥下の動きをX線透視画像で確認します。
舌下神経麻痺の治療法
嚥下障害の治療目標は安全な経口摂取の確立で、リハビリが治療の主役です。
手術療法は適応を正しく診断できれば、治療効果が期待できます。
嚥下機能改善手術は、発声と気道の一部を保存して安全な経口摂取を目指す手術です。一方、誤嚥防止手術は発声や気道の一部機能を犠牲にする手術で、患者さんやご家族とよく話し合って実施します。可能な限り嚥下機能改善手術を選択します。
参考:日本神経治療学会『標準的神経治療:神経疾患に伴う嚥下障害』
舌下神経麻痺のリハビリ方法は?嚥下障害と構音障害の訓練法
舌下神経麻痺による嚥下障害や構音障害のリハビリ方法をご紹介します。リハビリによって安全に食べる楽しみをもちたいですね。
舌下神経麻痺のリハビリ|嚥下障害に効果
運動障害性嚥下障害のもっとも多い原因は脳卒中です。麻痺の重症度によりますが、リハビリによって6か月以内には経口摂取できるようになる患者さんが多いでしょう。
嚥下障害のリハビリを担うのは、主に言語聴覚士です。
嚥下訓練の方法は間接訓練と直接(摂食)訓練があります。
間接訓練は食べ物を使わない訓練です。口腔やのどの器官の機能強化や運動の協調性機能改善を目的とします。
直接訓練は食べ物を使う訓練です。姿勢の調整、食事の環境づくり、食器や食形態の工夫をして、患者さんの能力を引き出しながら訓練します。医師と連携しながら、食べ物を誤嚥しないように安全に配慮して実施します。
嚥下障害と構音障害のリハビリ方法
嚥下障害の間接訓練や直接訓練は、患者さんの状態に合わせてプログラムが組まれます。
間接訓練の例は次のとおりです。
・舌背挙上訓練…スプーンの背を舌に置いて軽く押す。押す力に抵抗するように舌を持ち上げて1~2秒キープする。
・舌尖挙上訓練…口を開けた状態で舌先を上前歯の歯ぐき部に当てて、数秒間できるだけ強く押し付ける。
・頭部挙上訓練…患者さんが寝た状態で肩が床から離れないようにしながら、つま先をみる要領で頭部を挙げる。回数や方法は病状や体力に応じて実施する。
構音障害に対しては音読訓練、ブローイング訓練、口唇や舌の筋力訓練が実施されます。
音読訓練は正しい音が作れるようリハビリし、明瞭度を上げることが目的です。
ブローイング訓練は、水を入れたコップのストローや笛を吹いて口から息をだす訓練です。
まとめ|舌下神経麻痺の症状とリハビリの流れ
舌下神経麻痺とは、脳卒中、脳腫瘍、手術による神経損傷などが原因で起こる症状です。この症状によって、舌が萎縮して薄くなったり、舌を突き出すと麻痺側に偏ったりします。その結果、嚥下障害や構音障害が引き起こされることがあります。
嚥下障害のリハビリでは、安全に食べたり飲んだりできるようになることを目標とします。リハビリが治療の中心となり、間接訓練や直接訓練を行います。
間接訓練では、舌や口の周りの筋肉を鍛えるための体操を行います。一方、直接訓練では、実際に食べ物を使って、安全に飲み込む練習をします。
これらのリハビリを通して、患者さんが安全に食事を楽しめるようになることを目指します。
構音障害のリハビリでは、舌の動きを改善することで、正しい発音ができるようになることを目標とします。舌の運動訓練や、発音の練習を行います。
舌下神経麻痺によって引き起こされる嚥下障害や構音障害は、適切なリハビリを行うことで改善が期待できます。安全に食事ができ、コミュニケーションがスムーズにできるようになるために、患者さんに合ったリハビリプログラムを作成し、継続的に行うことで改善の道が開かれいていきます。