NEXTSTEPS リハビリお役立ちコラム 脳卒中の歩行リハビリを諦めない。麻痺があっても「楽に歩く」ためのコツと訓練の進め方

脳卒中の歩行リハビリを諦めない。麻痺があっても「楽に歩く」ためのコツと訓練の進め方

脳卒中の歩行リハビリを諦めない。麻痺があっても「楽に歩く」ためのコツと訓練の進め方

「退院してから歩き方がぎこちなくなった」「リハビリの頻度が減って、この先が不安…」。 そんな悩みを持ってこの記事に辿り着いたかもしれません。実は、病院を退院した後の「生活期」こそ、歩行の質が決まる本当の勝負所です。

多くの現場を見てきて確信しているのは、「歩けない」のではなく「歩き方を脳が忘れているだけ」というケースが非常に多いということです。この記事では、理学療法士の視点から、脳と脊髄の仕組みを利用した「再学習」のステップを詳しく解説します。

なぜ「頑張って歩こう」とすると逆効果なのか?

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リハビリを頑張る方ほど陥りやすいのが、麻痺した足を力ずくで振り出す練習です。しかし、これには2つの大きな落とし穴があります。

  • 「連合反応」が動きを固めてしまう
    強い力を入れようとすると、脳からの指令が混線し、足首が内側に返ったり(内反)、膝がピンと伸び切ったり(反張膝)しやすくなります。
  • 「代償動作」が疲れを招く
    腰を大きく振り上げたり、足を外側から回す「ぶん回し歩行」は、一見歩けているようでも、エネルギー効率が非常に悪く、長い距離を歩くことができません。

私たちが目指すのは、「筋力で歩く」ことではなく「効率よく、楽に足を出す」ことです。

ひと目でわかる:脳卒中リハビリの時期と歩行の目標

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リハビリは、時期によって「やるべきこと」が明確に違います。今の自分に必要なメニューを確認しましょう。

リハビリの時期主な場所歩行リハビリの目的大切なポイント
急性期(発症直後)病院(一般病棟)寝たきりを防ぎ、立つ準備をする早期離床、関節を固めない
回復期(〜数ヶ月)リハビリ専門病院「歩く能力」を最大限に引き出す正しいフォーム、装具の選定
維持期(生活期)自宅(訪問リハ)「生活で使える足」にする段差・屋外適応、持久力向上
リハビリの時期と歩行の目標

理学療法士の視点
「退院=リハビリ終了」ではありません。むしろ、自宅という本番の環境でどう動くかを決める「生活期リハビリ」こそ、歩行の質を左右する大事な時期です。

現場でのエピソード
以前、とにかく距離を歩こうと「ぶん回し歩行」で頑張っていた方がいらっしゃいました 。しかし、100メートル歩くのが限界で、いつも疲れ果てていました 。 そこで「筋力」ではなく「リズム」を意識し、少しだけ装具の調整を行ったところ、余計な力が抜け、翌月には「息を切らさず近くの公園まで行けた」と笑顔で報告してくださったのが印象的でした。

脳の「歩行スイッチ」をオンにする:CPG(脊髄歩行中枢)の科学

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現場でのエピソード
「足が重くて前に出ない」と悩んでいた方に、介助でしっかりと麻痺側の股関節を伸ばす動きを繰り返していただきました 。 スイッチが入った瞬間、ご本人が「あ、勝手に足が前に出ようとする感覚がある!」と驚かれたことがあります 。脳で考えすぎず、体の仕組み(CPG)をうまく引き出すことが、回復への大きな一歩になります 。

歩行は、実は脳だけでコントロールしているわけではありません。私たちの背骨の中(脊髄)には、CPG(脊髄歩行中枢)という「歩行のリズムを作る発電所」のような仕組みがあります。

このスイッチをオンにするためには、以下の3つの刺激が不可欠です。

  1. 股関節の「伸展」:足の付け根をしっかり伸ばす
    足が後ろに残る(蹴り出す直前)の姿勢になると、脊髄のスイッチが入り、反射的に次の足が前に出るようになります。
  2. 足底への荷重:しっかり体重を乗せる
    「この足は今、地面を支えている」という刺激が脳と脊髄に伝わることで、反対側の足が振り出しやすくなります。
  3. スピードとリズム:適切なテンポで動く
    ゆっくり考えながら歩くと、脳が主導権を握ってしまい、脊髄のリズム回路が働きません。あえて一定のテンポ(メトロノームなど)に合わせて歩くことで、この自動スイッチが働きやすくなります。

「装具」は卒業するものではなく、脳を育てるための「パートナー」

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現場でのエピソード
「装具を外すことがゴールだ」と信じて、自宅で裸足で練習されていた利用者様がいました 。しかし、足首が安定しないため、常に腰を痛めておられました。 納得いくまで話し合い、外出時だけは最新の軽量な装具を使うことにしたところ、歩行スピードが劇的に上がり、今ではご家族と一緒にデパートでの買い物も楽しまれています 。道具は「頼るもの」ではなく、あなたの世界を広げる「パートナー」なのです 。

「装具を外すこと」をリハビリのゴールに設定していませんか?

実は、無理に装具を外して崩れたフォームで歩き続けると、脳はその「間違った歩き方」を学習してしまいます。

  • 質の高い反復練習
    装具で足首を支えることで、余計な緊張が取れ、脳は「正しい歩き方の感覚」に集中できるようになります。
  • 最新の装具事情
    最近では、筋肉の動きをサポートする電動装具や、軽量で目立たないものも増えています。「道具を使うのは負け」ではなく、「道具を使って可能性を広げる」という考え方が、回復への近道です。

【実践編】自宅でできる「歩行のための」準備と自主トレ

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リハビリ室で歩く前に、まずは家の中で「歩ける体」を整えましょう。

  • 準備:足裏の「目覚まし」マッサージ
    麻痺側の足裏をテニスボールなどで軽く刺激したり、手で揉みほぐしたりしてください。感覚を刺激するだけで、立ち上がった時の安定感が変わります。
  • 基礎:麻痺側への「じわーっ」と片足立ち
    手すりをしっかり持ち、麻痺した方の足にゆっくり体重を移動させます。5秒間、安定して支えられることを目標にしましょう。
  • 応用:ステップ練習
    麻痺していない方の足を一歩前、一歩後ろへと動かします。このとき、支えている「麻痺側の足」の付け根がしっかり伸びているか意識してください。

脳卒中の歩行リハビリでよくある質問(FAQ)

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Q. 発症から1年以上経っていますが、今からでも良くなりますか?

A. はい、可能性は十分にあります。 かつては「発症後6ヶ月まで」と言われましたが、現在は脳の「可塑性(かそせい)」により、適切な刺激を与えれば1年を過ぎても動作の質が向上することが分かっています。

Q. 杖や装具はずっと使い続けないといけないのでしょうか?

A. 「安全に、遠くまで歩くための道具」として活用しましょう。 無理な自力歩行は関節を痛める原因にもなります。バランス能力が向上すれば、段階的に軽量なものへ変更していくことも可能です。

Q. 自宅で練習する際、家族はどのようなサポートをすればいいですか?

A. 「安全の確保」と「ポジティブな声掛け」が最大のサポートです。 具体的な介助方法は麻痺の程度によりますが、まずは転倒を防ぐための見守りが第一です。また、歩行リハビリは精神的な疲労も大きいため、「今の足の出し方、スムーズだったね」といった小さな成功を一緒に喜ぶことが、ご本人の脳の活性化(やる気)に直結します 。

Q. リハビリは毎日やったほうがいいですか?

A. 「量」よりも「質」と「頻度」を意識しましょう。 1週間に1回だけの猛特訓よりも、1日5分でも「正しいフォーム」を意識して動く時間を毎日作る方が、脳への定着は早まります 。ただし、疲れが溜まっている時は無理をせず、ストレッチや足裏のマッサージ(目覚まし)程度に留める勇気も必要です 。

Q. 歩くときに膝がピンと伸び切って(反張膝)痛むのですが、どうすればいいですか?

A. 力みすぎや装具の調整不足が考えられます。 麻痺した足を力ずくで支えようとすると、膝が後ろに突き出る「反張膝(はんちょうしつ)」が起こりやすくなります 。これは関節を痛める原因になるため、装具の角度を微調整したり、股関節から動かすリズムを再学習したりすることで、膝への負担を減らすことができます 。

Q. 訪問リハビリとデイサービスのリハビリは何が違うのですか?

 A. 「練習する環境」が決定的に違います。 デイサービスなどは広い空間での運動が主ですが、訪問リハビリは「あなたの自宅」が練習場です 。実際の玄関の段差、狭いトイレでの方向転換、近所のスーパーまでの道など、生活の「本番の環境」で直接リハビリを行えるのが最大のメリットです 。

訪問リハビリだからこそ解決できる「生活の壁」

病院のリハビリ室は、いわば「教習所」です。しかし、実際の生活は「公道」のようなもの。

  • 厚手の絨毯の上でのつまずき
  • トイレの狭いスペースでの方向転換
  • 雨の日のマンホールや横断歩道の傾斜

こうした「生活のリアルな場面」での歩き方を改善できるのは、あなたの家にお邪魔する訪問リハビリだけです。

まとめ:また「行きたい場所」へ行くために

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「もう何年も経っているから」「リハビリの回数が減ったから」と、歩くことを諦める必要はありません 。脳卒中のリハビリに、本当の意味での「手遅れ」はないからです 。

大切なのは、根性で何百歩も歩くことではありません。昨日より少しだけ楽に足が出た、支える側の足がしっかりした、という「小さな変化」を見逃さずに積み重ねることです 。その小さな一歩が、いつかあなたを「また行きたかったあの場所」へ連れて行ってくれます 。

病院でのリハビリが「教習所」だとしたら、私たちの訪問リハビリは「公道のドライブ」を支えるパートナーです 。ご自宅の段差や、いつもの買い物道でどう動くか。今の歩き方に不安があるなら、ぜひ一度、私たちにその悩みを聞かせてください 。

新しい一歩を、一緒に踏み出しましょう 。

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