
覚醒レベルを上げるリハビリ方法とは?適切な刺激で日常生活復帰を目指す
2025.06.04

脳の広範囲にダメージが加わると、覚醒レベルが低下した状態になり、意識がはっきりしない状態では運動の効果が半減します。運動学習の効率をよくするためにも、覚醒レベルを上げるリハビリが必要です。
脳卒中の後遺症改善では、質の高い反復練習を行い、高い集中力と脳の覚醒が欠かせません。そのためには五感の刺激や体勢、環境の変化が重要で、入院中は看護師やリハビリスタッフが連携して、患者の意識レベルを高める工夫が必要です。
今回は、覚醒レベルを上げるリハビリの具体的な方法を解説します。早期の生活復帰を目指すためにも理解を深めておきましょう。
目次
【覚醒レベルを上げるリハビリ】意識低下の原因理解と評価方法

覚醒レベルを上げるリハビリを行うためには、「脳の覚醒」に関する知識を深める必要があります。覚醒レベルについて詳しく知ると、リハビリテーションの質が向上し、効率よく機能回復を目指せるでしょう。
覚醒レベルの解説と評価方法
覚醒レベルとは脳の興奮状態を表し「意識がはっきりしているか?」「眠っている状態なのか?」を判断する指標です。正常であれば脳が興奮し目が覚めている状態ですが、脳に障害があると注意力が低下して眠っている状態に近くなります。
覚醒レベルは、JCSやGCSと呼ばれる方法で評価します。
<覚醒レベルの評価方法>
- JCS(ジャパン・コーマ・スケール):緊急時に使用される簡便な評価法
- GCS(グラスゴー・コーマ・スケール):亜急性期や慢性期の患者さんに使用する
意識レベルを評価することで患者さんの重症度や回復の予後を予測し、治療やリハビリテーションに役立てます。
参考:本八幡内科・循環器クリニック「【意識レベル評価】JCS・GCSとは?意識障害の対応は?」
覚醒レベルが落ちる原因は?
覚醒レベルの低下は、脳血管疾患や代謝疾患によって引き起こされます。脳血管疾患による意識障害は、脳卒中の種類や障害部位によって異なることが特徴です。
<覚醒レベルが落ちる原因>
- 脳血管疾患(脳幹、視床下部)
- 低酸素、低血糖、電解質異常などの代謝障害
脳卒中によって意識を司る部位が障害されると、覚醒レベルが下がります。特に脳幹や視床下部と呼ばれる場所に大きなダメージが加わると、最悪の場合死に至る危険もあり注意が必要です。
リハビリテーションの進捗に影響する
覚醒レベルの程度はリハビリテーションの進捗に影響を与えます。傾眠状態にあったり、注意が散漫としていたりする状態では運動学習が効率よく進まず、後遺症改善が期待できません。他にも覚醒レベルが低いと体や生活にさまざまな影響を及ぼします。
<覚醒レベルが低いデメリット>
- 運動学習の遅延
- 日常生活での介助が必要
- 事故(転倒)のリスク増加
意識がはっきりしてない状態では、安全に自立した生活を送ることができません。覚醒レベルを上げることは社会復帰を目指すための重要な項目になるでしょう。
【重要事項】覚醒レベルを上げるリハビリが与えるメリットと効果

リハビリテーションを通じて日常生活に復帰するには、覚醒レベルを上げる必要があります。覚醒レベルが上がると、運動学習やリハビリが効率よく進み、社会復帰に早く近づくことが可能です。脳の覚醒レベルが与えるメリットと効果を深堀しましょう。
運動学習の効率化により身体機能が回復
リハビリによって新しい運動を学習するには注意を集中し、周囲の情報を取り入れる必要があります。脳卒中後遺症を改善するには、反復した運動で新しい神経回路を構築し運動を学習する必要がありますが、覚醒レベルが低い状態ではリハビリ効果を得ることができません。
覚醒レベルの状態は、運動学習の進捗に大きな影響を与えるため注意が必要です。
リハビリテーションの効果が高まる
覚醒レベルが良好だとリハビリテーションの効果が高まります。意識が鮮明であればリハビリに対する意欲も高まり、積極的な姿勢が見られるので後遺症改善効果も期待できるでしょう。
逆に覚醒レベルが低い状態では、リハビリに対する姿勢が消極的になり、セラピストの助言に対する理解も乏しくなるので注意が必要です。質の高いリハビリテーションを行うには、患者本人の積極的な姿勢や高い覚醒レベルが重要になります。
日常生活への復帰を早める
覚醒レベルが高ければ日常生活への復帰が早くなります。しかし、覚醒が低い状態が続くと臥床時間が長くなり、筋力や体力低下が進み入院期間が長くなるため注意が必要です。
他にも、退院後の生活では二つの事を同時に進行する能力(デュアルタスク)も必要になります。覚醒レベルの高さと自立した日常生活は、密接な関係にあるのを覚えておきましょう。
覚醒レベルを上げるリハビリの具体的な内容は?チーム医療が重要

覚醒レベルを上げるリハビリは、日常生活復帰に向けて重要なポイントです。リハビリテーションの効果や効率を良くするために、覚醒レベルを上げる具体的な方法について理解を深めましょう。難しいテクニックではないので、医療従事者でなくとも実践できる内容も解説します。
五感への刺激が有効!個人に合わせた刺激
覚醒レベルを上げるには、五感を刺激した方法が有効とされています。本人の興味や関心が深い刺激に対して強い反応を示すのが特徴です。
<覚醒を上げる刺激>
- 視覚刺激(興味のある物を見る)
- 聴覚刺激(好きな音楽を聞く)
- 触覚刺激(患者自身に触る)
- 味覚刺激(好きな味を感じる)
- 嗅覚刺激(刺激のあるものや好きなにおいを嗅ぐ)
好きな物や興味があるものに関わると、目が覚めるような感覚を感じることがあります。脳にダメージを負った場合も同様で、興味関心がある刺激を与えて覚醒レベルを上げるのが重要です。病前の患者について理解を深め、個人にあった刺激を選択するのがベストでしょう。
体位交換と環境変化による刺激
体勢や環境を変える事で脳に刺激が加わり、覚醒レベルが上がる可能性があります。患者の覚醒レベルに応じて段階的に体勢を変えて適切な刺激を加えましょう。
<体位交換や環境変化の例>
- ベッドを起こす
- 寝ている状態から座位に移る
- ベッドから車椅子に移る
- 車椅子で院内や屋外を散歩する
- 食堂で他者と食事をする
患者に加わるさまざまな環境の変化が、覚醒に大きな影響を与えます。また、覚醒が上がらない状態で座位姿勢に移ると転倒の危険が高まるので注意しましょう。
個人に合わせた姿勢や環境の変化が、覚醒レベルを高めることに繋がります。
参考:第47回日本理学療法学術大会抄録集「積極的な体性感覚入力により意識レベルの向上がみられた症例」
チーム医療で刺激を与え続ける
覚醒レベルを上げるには、チーム医療で連携を取りながら患者と接する必要があります。覚醒の低い患者はベッド上での生活が長く、脳への刺激が足りません。リハビリの時間だけ離床しても刺激が乏しいため、他職種と連携を取り覚醒を上げる工夫を施しましょう。
<入院期間中に覚醒を上げる工夫>
- 覚醒が低くても適宜声掛けを行う
- ベッドを起こす時間を作る
- 車椅子で過ごす時間を作る
覚醒レベルを上げるには、リハビリ職員と看護師の連携が必要不可欠です。チームで会議を行い、患者に適切な刺激を与える方法を確立させましょう。
まとめ|脳卒中後は覚醒レベルを上げるリハビリを積極的に行う

脳に広い範囲でダメージ(けがや障がい)が起こると、意識がぼんやりしてしまうことがあります。このような状態では、名前を呼んでも反応がなかったり、話しかけてもすぐに眠ってしまったりします。
日常生活に戻るためには、まずは「覚醒(かくせい)レベル」=「起きていて頭がはっきりしている状態を高めること」がとても大切です。リハビリを始める前に、意識がはっきりしていることが必要だからです。
たとえば、覚醒レベルが低いままだと、動きを覚えるリハビリ(運動学習)がうまく進みません。また、集中力が続かず、リハビリの効果が出にくくなることもあります。日常生活では、まわりに注意を向けることがたくさんあるため、「しっかり目覚めている」ことがとても重要になります。
覚醒レベルを上げるためには、いくつかの工夫が必要です。たとえば、その人が興味を持っていることや好きなことを理解して、やる気が出るような刺激を与えることが効果的です。好きな音楽を流したり、好きな話題で話しかけたりすることも、その人の反応を引き出すヒントになります。
また、ベッドに寝たままの時間が長くなると、体も心も元気がなくなってしまうため、寝たきりの状態をできるだけ避けることも大切です。リハビリのセラピストや看護師さんなど、いろいろな人が協力して、チームで覚醒レベルを上げるサポートをしていく必要があります。
覚醒状態は、リハビリの進み具合にとても大きな影響を与えます。だからこそ、その人に合ったやり方で、少しずつ意識を高め、後遺症の改善につなげていくことが大切です。