延髄梗塞の症状と改善に向けたリハビリ内容|退院後も生活習慣の見直しが大切
2025.11.05
日本では毎年約13万人が脳卒中を発症しているといわれており、その約7割を脳梗塞が占めています。脳梗塞は、小さな血管から大きな血管までさまざまな場所で起こりますが、稀に延髄梗塞を発症するケースがあるため注意が必要です。
「延髄(えんずいこうそく)」は脳幹の一部分の名前で、生命を維持するための重要な働きを持ちます。延髄梗塞を発症すると、片麻痺症状だけでなく、バランス障害や構音障害、嚥下障害なども合併する可能性があります。
発症後はリハビリによる機能回復が必要不可欠となるため、効果的な運動を行うためにも、延髄の働きやリハビリのポイントの理解を深めましょう。
目次
【延髄梗塞とは?】脳幹の役割を理解して片麻痺以外の特徴を抑える

「延髄」と聞いても「どこにあって、どんな役割があるのか分からない」という方も多いでしょう。延髄の働きを知ると、延髄梗塞で出現する症状のイメージを掴みやすくなり、リハビリや介助に役立ちます。
延髄はどこ?場所や役割について
延髄は「脳幹」とよばれる場所の一部で、脊髄と脳をつなぐ部分にあります。脳幹は上から順に中脳、橋、延髄に分かれ、延髄は最下部に位置しています。
延髄は、生命を維持するために欠かせない大切な働きがあり、以下のようなさまざまな中枢が集まっている部位です。
- 呼吸中枢
- 循環中枢
- 反射中枢(咳や飲み込みの反射)
- 感覚の伝導路
延髄は生きるための基本機能をコントロールする役割があり、ダメージを負うと全身に大きな影響を与えるため、注意が必要です。
延髄梗塞の主な原因は?
延髄梗塞は、延髄に血液を送る血管が閉塞すると生じる脳梗塞の一つです。延髄梗塞の主な原因は動脈硬化といわれており、高血圧や高脂血症、糖尿病などの生活習慣病を抱えている方は発症リスクが高い疾患です。
また、「椎骨動脈解離」と呼ばれる症状も原因になるケースがあり、延髄への血液供給を行う椎骨動脈の異常は50歳前後の若年者であっても注意が必要といわれています。
片麻痺以外で見られる症状
延髄梗塞を発症すると、片側の運動や感覚障害以外にもさまざまな症状が見られます。
- 嚥下障害
- 構音障害(しゃべりづらさ)
- めまいやふらつき
重症例では、呼吸障害や意識障害などの重篤な合併症が現れる可能性もあるため、油断は禁物です。延髄には生命維持に欠かせない役割があるため、脳梗塞を疑う症状が見られたら早めの病院受診を心がけましょう。
延髄梗塞の治療方法|治療後は症状や目的に応じたリハビリが重要

延髄梗塞は、早期の治療とリハビリテーションによる後遺症改善が大切です。延髄梗塞の治療は、時期や重症度によって内容が異なります。急性期から回復期にかけて行う治療とリハビリについて理解しておきましょう。
発症初期は投薬や点滴で治療
延髄梗塞が発症した直後は、脳のダメージを最小限に抑え、命を守るための治療を最優先に行います。
<超急性期の治療>
- t-PA静注療法:発症から4.5時間以内は血栓を溶かす治療を行う
- カテーテル治療:太めの血管やt-PAが使えない場合に検討される
上記の治療が適応でない場合は、「血小板薬」や「抗凝固薬」を投与して脳梗塞の再発を防ぎながら全身状態を管理します。
運動機能に対する理学療法で基本動作を改善
延髄梗塞発症後、全身状態が安定したら積極的なリハビリを行うのが大切です。延髄梗塞では、急性期から回復期にかけて数週間〜数ヶ月のリハビリを行い、生活や社会への復帰を目指します。
<急性期のリハビリテーション>
- 発症後数日~約1ヶ月
- ベッドサイドでの関節可動域運動や筋力強化運動
- 状態に応じて早期離床や歩行練習など
<回復期のリハビリテーション>
- バランス練習で転倒予防
- 歩行練習で自立歩行を目指す
- 筋力強化トレーニングや持久力向上運動
具体的なリハビリの内容は、後遺症の種類や程度によって異なります。延髄梗塞は「呼吸障害」や「嚥下障害」が見られるケースもあるため、姿勢の修正や体幹筋力強化などの運動もプログラムに取り入れます。
嚥下や構音障害は言語聴覚士のリハビリ
延髄にダメージを負うと、しゃべりづらさや飲み込みづらさなどの症状が見られる場合があります。嚥下障害や構音障害に対するリハビリは、言語聴覚士による専門的な訓練で後遺症改善を目指します。
- 食事内容の調整や姿勢の修正
- 唇、舌、頬、喉などの筋力強化体操
- 飲み込む力のリハビリや呼吸訓練
延髄梗塞は、嚥下や構音障害を専門とする言語聴覚士のリハビリも併用して行い、在宅復帰を目指す流れになります。
退院後の生活のポイントは?延髄梗塞の再発を予防する生活習慣

延髄梗塞のリハビリが終了して退院した後も、生活習慣を整えたり住宅環境を見直したりして、安全に生活するための工夫が必要です。重症度によりますが、何かしらの後遺症を抱えて生活するケースが考えられるため、症状にあった対策を施しましょう。
生活習慣の見直しで再発予防
脳梗塞は10年以内に約50%が再発するといわれるほど、油断できない病気です。再発すると、重篤な後遺症を抱える危険や生命に影響を及ぼす可能性があります。延髄梗塞の療養期間後は、再発予防を心がけましょう。
- バランスの良い食事を心がける
- 禁煙や減酒で健康的な習慣を作る
- 運動不足を解消する
- ストレスをためない工夫をする
延髄梗塞の再発を防ぐためにも、食事や運動などを見直して体に優しい生活を意識しましょう。
自宅の環境設定で安全な生活
延髄梗塞の発症後は、後遺症を抱えたまま生活する可能性があります。その場合は、症状に応じて住宅環境の改善が必要になるかもしれません。
例えば、片麻痺症状やバランス機能の障害があるケースなら、転倒予防を考慮した環境を作りましょう。また、小さな段差の解消や、コード類などの足を引っかける可能性があるものを置かないなどの工夫も大切です。
継続したリハビリで機能改善
「退院後に全くリハビリがない」という状態が不安な方は、延髄梗塞の治療終了後も、介護保険を利用してリハビリを継続する方法があります。
後遺症を抱えた状態での在宅生活は、想定しなかったトラブルが起こることもあるため、専門家によるリハビリを継続して受けると安心です。介護保険を利用したリハビリでは、「通所リハビリ」や「訪問リハビリ」などのサービスがあります。
利用を希望する方は、ケアマネージャーや地域包括支援センターに相談すると良いでしょう。
FAQ|延髄梗塞に関するよくある質問

Q:延髄梗塞はどのような病気ですか?
A:脳の下部にある延髄への血流が途絶えることで起こる脳梗塞です。延髄は、呼吸・嚥下・血圧など生命維持に必要不可欠な重要な働きを担うため、発症すると重篤な症状が現れることがあります。
Q:延髄梗塞の主な症状はなんですか?
A:症状の程度は梗塞の範囲や位置によって異なりますが、主に以下のような症状が挙げられます。
- 飲み込みづらい(嚥下障害)
- 呂律が回らない(構音障害)
- めまいやふらつき
- 体の片側のしびれや麻痺
Q:延髄梗塞のリハビリはいつから始めるのが良いですか?
A:一般的には発症直後から、医師の許可のもとで早期リハビリを開始します。早期介入することで、機能の改善や後遺症の軽減に期待ができます。
Q:延髄梗塞は再発しますか?
A:特に、生活習慣や基礎疾患を改善しない場合、再発リスクが高まります。医師の指導に従い、血圧や糖尿病などをコントロールすることが大切です。
Q:退院後に気をつける生活習慣はありますか?
A:再発防止のために、以下の習慣を意識しましょう。
- 血圧や血糖のコントロール
- 禁煙や飲酒量を抑える
- バランスの良い食事
- 無理のない運動習慣
まとめ|延髄梗塞の特徴とリハビリを理解して後遺症改善を目指そう

延髄梗塞(えんずいこうそく)は、脳梗塞の中でも比較的まれなタイプです。しかし、延髄という場所は「呼吸」「心臓の動き」「飲み込み」など、人が生きるために欠かせない働きを担っているため、ここが障害を受けるとさまざまな症状が現れます。
代表的な症状として、体の片側が動かしにくくなる(片麻痺)、飲み込みが難しくなる(嚥下障害)、呼吸がしづらくなる(呼吸障害)などがあります。これらの症状は日常生活に大きな影響を与えるため、早期から適切なリハビリを始めることがとても大切です。
発症後は、症状に合わせて理学療法士などの支援を受けながら、在宅復帰を目指します。退院後も、自費訪問リハビリや介護保険を使ったリハビリサービスを利用することで、自宅で継続的にリハビリを行うことができます。
また、脳梗塞は再発しやすい病気でもあります。再発すると、前よりも重い後遺症が残るリスクが高まり、命に関わることもあります。退院後は、食事・運動・睡眠などの生活習慣を整え、再発予防を意識することが重要です。
小さな工夫の積み重ねが、再発を防ぎ、より自分らしい生活を取り戻す一歩になります。






