リハビリとQOLの関係とは?患者・利用者にとっての「良い生活」とは
2023.07.07
様々な場面で使われるようになった「QOL」という単語。「生活の質」を表す単語ですが、広義の言葉のように思われがちです。特に「生活の快適さ」という意味で耳にすることが多いかもしれません。
しかし、医学においては幅広い意味を持つ言葉でもあります。リハビリ分野でも重要視されつつあり、特に利用者・患者のQOL向上は近年活発に議論されている指標です。
では、QOLとリハビリの関係性とはいったいどういうものなのでしょうか。この記事では、リハビリにおけるQOLと生活の質向上のための取り組みについて解説します。
QOL=生活の質とは?医療での取り組みと評価指標を解説
では、まず医療分野においてのQOL=生活の質とは何なのかについて解説します。
WHOが定めたQOL=Qualityoflife(生活の質)とは
WHO(世界保健機関)では、QOLを「一個人が生活する文化や価値観のなかで、目標や期待、基準、関心に関連した自分自身の人生の状況に対する認識」と定義しました。
また、国際的にQOLを評価できるQOL基本調査票「WHO/QOL」を開発しています。この基本調査票では、6つの領域が設定されています。
- 身体的領域
- 心理的領域
- 自立のレベル
- 社会的関係
- 生活環境
- 精神性・宗教・信念
これら6つの領域内で質問を設定し、回答を点数化して集計する評価法です。このことから、QOLはある程度可視化できる指標でもあるといえます。
QOL向上に対する医療からの取り組み
WHOの定義とは別に、医学的にはQOLを「病気や加齢によりそれまで通りの生活ができなくなった人が、これでいいと思える生活の状態のこと」を指しています。
しかし、QOLとは決して「病気やケガを負う前の生活に戻ること」ではありません。あくまで現状の生活能力で良いと思える状態まで持っていくことです。
このことから、QOLはあくまで無理に元の生活に戻すわけではなく、患者や家族の主観的な評価を重視すべき項目といえます。
QOLを無視するとどうなるのか
では、QOLをかえりみずに治療やリハビリを行うとどうなるのでしょうか?
QOL自体はここ30年ほどで顕在化した概念です。その前までは患者の治療などはあくまでキズを治すこと、痛みを和らげることに重きを置いていました。
しかし、それだけではケガ・病気前の生活よりも下がった能力はそのままです。能力が下がっていると意欲も下がり、ますます生活能力も低くなります。治療後の生活のためにも、QOL向上の試みは必要といえるでしょう。
参考:QOL (クオリティ オブ ライフ)を向上させよう!その意味と評価基準
後遺症治療だけじゃない!リハビリとQOLの関係性とは?
医療分野においてのQOLについて解説しましたが、リハビリとの関係性とはいったいどんなものなのでしょうか?今度はリハビリとQOLの関係性について解説します。
リハビリのアウトカム(成果)としてQOLを利用
QOLには、リハビリの「アウトカム(成果)」の可視化という役目があります。
リハビリには「プラン(計画)」と「アウトカム(成果)」の2つが必要不可欠です。プランは利用者・患者の現状に合わせて策定されますが、アウトカムは見えづらくなりがちです。
しかし、向上したQOLを測ることでアウトカムを可視化すると、リハビリプランが最適だったのかどうかという評価も可能です。QOL向上をリハビリプランに組み込むことも必要ということになります。
QOLの向上がリハビリ効果UPに繋がる理由
アウトカム(成果)とはプランを実行し、目標を達成できたかという評価軸のはずです。なぜQOLの向上がアウトカムに繋がるのでしょうか?
それは「リハビリ前・後によって生活や能力の改善がみられたか」がQOL評価によって可視化されるからです。
QOL評価は本人の主観的な回答によって点数が上がります。「自分の生活や能力が改善した」「幸福や充実を感じた」といった主観がQOLの点数を上げます。
リハビリは本来、機能改善や病気・ケガ後の生活の充実を試みるためのものです。だからこそ、QOL評価の上昇はリハビリのアウトカムとして欠かせないものとなりました。
【疑問】リハビリは機能訓練だけでは足りないの?
ここで挙がるのが「リハビリは機能訓練だけではだめなのか」という疑問です。リハビリテーションとは「機能回復訓練」のことだと思われがちだからでしょう。
しかし、リハビリテーションという言葉には「Re(再び)」「Habilis(適した・ふさわしい)」という意味があります。「人間らしく生きる権利の回復」や「自分らしく生きれるようになる」という意味ともいえるでしょう。
つまり、広義ではリハビリ=QOLの向上ともとれます。リハビリとQOLは切っても切り離せないものと言っても過言ではありません。
QOLは評価できる?理学療法士が実施の検査「SF-36」とは
QOLの評価方法はWHOQOLだけではありません。では、一般的に用いられるQOL評価とはどんなものがあるのでしょうか?
ここでは理学療法士が実際に実施しているQOL検査方法を紹介します。
【SF-36】世界的に用いられているQOL検査方法
QOL検査方法の一つ「SF-36」は、世界的に用いられる汎用的なQOL検査方法です。
SF-36は、36項目の設問からなっており、設問に対する回答を以下の8つの下位尺度から評価します。
- 身体機能
- 日常役割機能(身体)
- 身体の痛み
- 社会生活機能
- 全体的健康感
- 活力
- 日常役割機能(精神)
- 心の健康
これらの項目に対して点数が高ければQOLが高いことになります。
健康な人とも比較可能な「包括的尺度」で評価
SF-36が汎用的とされる点は、一般的な健康な人との比較が容易な点です。点数化できるだけでなく、その点数には国民標準値が示されているというのが最大の利点でしょう。
国民標準値に近いか遠いかで対象がどの程度のQOLか測定できます。こういった健康な人との比較が容易な尺度のことを「包括的尺度」といいます。
また、世界170カ国語で翻訳されているため、今も世界中の理学療法士が使用しています。ただし、有料のライセンス申請が必要なため、誰でも使えるわけではありません。
病気ごとに対応可能な「疾患特異的尺度」
包括的尺度に対して、病気ごとに治療効果を測定しやすい「疾患特異的尺度」という評価方法があります。
- WOMAC…膝関節・股関節などの変形関節疾患で用いられる
- FACT-G…がん患者で用いられる
- SGRQ…COPD(慢性閉塞性肺疾患)で用いられる
有名なものは上記の3つです。それぞれの痛みの特徴・症状から項目が決められており、点数が高いほど痛みや困難が強い=主観QOLが低いとみなされます。
リハビリではアウトカムとして、臨床的アウトカムの他に包括的尺度と疾患特異的尺度でのQOL評価が用いられることが多くなりつつあります。
まとめ
医療分野におけるQOLは、一般的な人が思い浮かべる「生活の質」とは違い、「病気や加齢によりそれまで通りの生活ができなくなった人がこれでいいと思える生活の状態のこと」をいいます。
リハビリは、患者・利用者自身が「よくなった」「改善された」と思うことに重点が置かれつつあります。そのため、主観的評価であるQOLはリハビリのアウトカムとして欠かせないものとなりました。
今までは筋肉量の増加や歩行距離などのADL得点が主流でしたが、今後はQOL評価という主観的な評価がアウトカムの主流になるかもしれませんね。