Q.
「立つ・歩く」の運動が脳卒中リハビリテーションに効果的な理由は何ですか?
脳卒中は、脳血管の異常により脳組織が損傷を受ける疾患で、手足の麻痺や言語障害などの後遺症が残ることがあります。リハビリテーションは、これらの後遺症を改善し、日常生活の自立を目指すために欠かせません。中でも、「立つ・歩く」の運動は、脳卒中リハビリテーションに特に効果的とされています。
「立つ・歩く」の運動は、脳卒中によって失われた運動機能の回復に直接的に働きかけます。脳卒中の後遺症として、下肢の麻痺や筋力低下が起こることが多いですが、立位や歩行の練習を繰り返すことで、これらの症状の改善が期待できます。立つ動作や歩く動作には、足や腰、体幹の筋肉が複雑に協調して働く必要があります。これらの動作を反復することで、麻痺した筋肉の再教育が行われ、運動機能の回復が促されるのです。
また、「立つ・歩く」の運動は、バランス能力の向上にも効果的です。脳卒中の後遺症として、バランス感覚の低下や体幹機能の低下が起こることがあります。これらの症状は、転倒のリスクを高め、日常生活の自立を妨げる要因となります。立位や歩行の練習では、体重を支えながら重心を移動させる動作が求められます。これらの動作を通じて、バランス感覚や体幹機能が鍛えられ、転倒リスクの減少につながるのです。
さらに、「立つ・歩く」の運動は、日常生活動作(ADL)の改善にも直結します。脳卒中の後遺症によって、食事や排泄、入浴など、日常生活のあらゆる場面で介助が必要になることがあります。立位や歩行の能力が向上することで、これらの動作の自立度が高まります。例えば、トイレまで自分で歩いて行けるようになれば、排泄動作の自立につながります。自分の足で移動できるようになることは、日常生活の質の向上に大きく寄与するのです。
加えて、「立つ・歩く」の運動は、循環器系の機能維持・向上にも効果があります。脳卒中の患者さんは、長期間の臥床によって、循環器系の機能が低下しがちです。立位や歩行の運動は、下肢の筋ポンプ作用を促進し、血液やリンパ液の還流を助けます。これにより、むくみの軽減や、血栓形成のリスク低下などの効果が期待できます。また、適度な運動は、心肺機能の維持・向上にも役立ちます。
「立つ・歩く」の運動は、脳卒中リハビリテーションの基本中の基本と言えます。運動機能の回復、バランス能力の向上、ADLの改善、循環器系の機能維持など、多方面にわたる効果が期待できるからです。リハビリテーションでは、まず立位保持から始め、徐々に歩行距離を伸ばしていきます。平行棒内歩行、杖歩行、独歩と、段階的に難易度を上げていくことで、着実に歩行能力を高めていくことができます。
ただし、「立つ・歩く」の運動は、患者さん一人ひとりの状態に合わせて、適切に進めていく必要があります。麻痺の程度や、バランス能力、全身状態などを十分に評価し、無理のない範囲で運動を行うことが大切です。また、リハビリテーションは、理学療法士のサポートのもとで行うことが原則です。
脳卒中は、後遺症との長い闘いが求められる疾患です。しかし、適切なリハビリテーションを受けることで、多くの患者さんが日常生活の自立を取り戻しています。「立つ・歩く」の運動は、その回復の過程で欠かせない要素。一歩一歩、着実に歩行能力を高めていくことが、脳卒中からの復活への道筋となるのです。