Q.
難病のリハビリで、日常生活動作の訓練はどんな意味があるの?
難病患者のリハビリで重要な柱の一つが、日常生活動作(ADL)の訓練です。具体的には、食事、更衣、トイレ、入浴、移動など、日常生活に欠かせない動作の練習を指します。
こうした一見地味な訓練に、どんな意味があるのでしょうか。
ADLの訓練の最大の目的は、患者さんの自立を促すことにあります。病気の進行により、できていたことができなくなる。そんな時、リハビリを通してADLの能力を維持・回復することは、自分らしい生活を送る上で欠かせません。訓練を重ねることで、「人の手を借りずに できること」を増やし、自立した日常を取り戻すサポートができるのです。
また、ADLの訓練は、 体力の維持・向上にも役立ちます。日常の何気ない動作も、体を動かす良い機会。例えば、着替えの動作は、上肢の筋力やバランス感覚を鍛えることにつながります。食事の動作は、手指の巧緻性(こうちせい)を保つ効果が期待できます。こうした日常の動きを通して、心身の機能を総合的に高めていけるのです。
さらに、ADLの訓練には、 精神面での効果もあります。病気とともに生きる中で、「以前のようにできない」と落ち込む患者さんは少なくありません。しかし、訓練を通して「自分にもまだできることがある」と実感できれば、自信や意欲の回復につながります。小さな成功体験の積み重ねが、難病に負けない心の力を育んでいくのです。
ただし、ここで大切なのは、患者さん一人ひとりに合わせた訓練プログラムを組むこと。難病の種類や進行度合い、そして患者さんの生活環境は千差万別。画一的な訓練ではなく、その人に必要な動作を見極め、オーダーメイドのプランを作成することが求められます。
また、リハビリの専門家は、患者さんの残存機能を最大限に生かす工夫も大切にしています。例えば、スプーンが持ちにくければ、太めのグリップに変えてみる。ボタンが留められなければ、マジックテープ式の服を選ぶ。こうした柔軟な発想で、患者さんができることを増やしていく姿勢が欠かせません。
難病患者にとって、ADLの訓練は、自立と尊厳を守る大切なプロセス。一つひとつの動作に丁寧に向き合い、できることを増やしていく。それは、決して派手ではないかもしれません。でも、その地道な積み重ねこそが、難病とともに生きる原動力になるのです。リハビリの可能性を信じ、ADLの訓練に取り組んでいきたいです。