Q.
脳卒中の後遺症にはどのようなものがありますか?
脳卒中は、脳血管の異常により脳組織が損傷を受ける疾患です。急性期の治療を乗り越えた後も、多くの患者さんが後遺症に悩まされることになります。脳卒中の後遺症は、損傷を受けた脳の部位や範囲によって様々ですが、身体機能、認知機能、情動面など、多岐にわたります。
運動麻痺は脳卒中の最も一般的な後遺症の一つです。脳卒中によって運動野や皮質脊髄路が損傷を受けると、手足の麻痺が生じます。麻痺は片側性であることが多く、重症度は軽度の脱力から完全麻痺まで幅があります。運動麻痺は、日常生活動作(ADL)の低下につながり、リハビリテーションにおける主要な治療ターゲットとなります。
感覚障害も、脳卒中の一般的な後遺症です。感覚野や視床、脳幹などの損傷により、触覚、痛覚、温度感覚などの低下や脱失が起こります。感覚障害は、患者さんのADLや安全性に大きな影響を与えます。リハビリテーションでは、感覚の再教育や代償方法の獲得が目標となります。
言語障害は、左大脳半球の損傷によって生じる後遺症です。失語症、構音障害、失読、失書などがあります。失語症は、言語の理解や表出に障害が生じる状態で、コミュニケーション能力の低下につながります。言語聴覚士による集中的な言語療法が、回復に重要な役割を果たします。
視野障害も、脳卒中の後遺症としてよく見られます。後頭葉や視放線の損傷により、同名半盲などの視野欠損が生じます。視野障害は、読書や運転など、日常生活に大きな影響を与えます。リハビリテーションでは、視覚探索訓練や代償方法の獲得が目標となります。
認知機能障害は、記憶障害、注意障害、遂行機能障害などを含む、脳卒中の重要な後遺症です。認知機能は、日常生活のあらゆる場面で必要とされる高次脳機能です。認知機能障害は、ADLの低下や社会復帰の障壁となります。作業療法士や臨床心理士による認知リハビリテーションが、回復に重要な役割を果たします。
情動面の問題も、脳卒中患者さんに 一般的に見られる後遺症です。抑うつ、不安、情動失禁などがあります。これらの問題は、脳の損傷による直接的な影響と、障害を受けたことによる心理的な反応の両面があると考えられています。薬物療法や心理療法、環境調整などの多面的なアプローチが求められます。
嚥下障害は、脳幹や大脳皮質の損傷によって生じる後遺症です。食事や水分の誤嚥を引き起こし、肺炎などの合併症につながる危険性があります。嚥下機能の評価と、適切な食事形態の選択、嚥下訓練が重要となります。
脳卒中の後遺症は、患者さんのQOLに大きな影響を与えます。身体機能、認知機能、情動面など、多岐にわたる問題に対して、包括的なリハビリテーションアプローチが求められます。
リハビリテーションでは、一人ひとりの患者さんの症状や目標に合わせた、個別のプログラムが立案されます。理学療法、作業療法、言語聴覚療法など、多職種によるチームアプローチが、回復を促します。また、患者さんと家族の積極的な関与が、リハビリテーションの効果を高める上で欠かせません。
脳卒中の後遺症からの回復は、長い時間と努力を要するプロセスです。しかし、適切なリハビリテーションと支援によって、多くの患者さんが身体機能の改善と、社会復帰を果たしています。医療者と患者さん、家族が一体となって、粘り強く取り組むことが、よりよい予後につながるでしょう。
後遺症と向き合うためには、医療者からの十分な情報提供と、患者さん自身の理解が重要です。症状やリハビリテーションの方針、生活上の工夫などについて、オープンに話し合える関係性が求められます。専門家の知識と経験を活かしつつ、患者さんの価値観や希望を尊重した、協働的なアプローチが理想的です。