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脳梗塞になると意識障害になるのはなぜですか?
脳梗塞は、現代社会において私たちの健康を脅かす大きな問題の一つです。年間約30万人もの方が脳梗塞を発症し、その多くが後遺症に苦しんでいます。特に、意識障害は脳梗塞の最も重篤な症状の一つであり、患者さんやご家族にとって大きな不安を与えます。
今回は、脳梗塞になるとなぜ意識障害が起こるのか、そのメカニズムについて詳しく解説していきます。
脳梗塞とは何か? まず、脳梗塞とはどのような病気なのでしょうか。簡単に言うと、脳の血管が詰まることで脳細胞への血流が途絶え、その結果脳組織が壊死する病態です。脳梗塞の原因としては、大きく分けて以下の2つがあります。
- アテローム血栓性脳梗塞 動脈硬化によって血管壁にプラークが形成され、そこに血栓が付着することで血管が詰まるタイプです。高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙などが主なリスク因子となります。
- 心原性脳塞栓症 心臓に血栓ができ、それが脳の血管に運ばれて詰まりを起こすタイプです。心房細動、弁膜症、心筋梗塞などが原因となります。
脳梗塞が起こると、脳細胞は酸素や栄養の供給を断たれ、数分以内に不可逆的な損傷を受けてしまいます。そのため、脳梗塞の治療では発症後の時間が非常に重要となります。
意識障害はなぜ起こる? では、脳梗塞によって意識障害が起こるメカニズムについて見ていきましょう。意識障害が生じる主な原因は以下の4つです。
- 脳への血流低下 脳は体重のわずか2%ほどの重さしかありませんが、全身の血流の20%以上を必要とする、非常に血流依存度の高い臓器です。脳梗塞によって脳への血流が著しく低下すると、脳機能が大きく損なわれ、意識障害が引き起こされます。
- 脳幹の虚血 脳幹は、意識や覚醒を維持するために重要な役割を担っています。特に、網様体賦活系と呼ばれる神経ネットワークは、意識レベルの調節に深く関与しています。脳幹部への血流が低下すると、これらの神経ネットワークが障害され、意識障害が起こります。
- 大脳皮質の機能低下 大脳皮質は、私たちの思考、記憶、言語、感情など、高次脳機能を司る重要な部位です。脳梗塞によって大脳皮質の広範囲が障害されると、これらの機能が低下し、意識レベルの低下が引き起こされます。
- 脳浮腫の影響 脳梗塞が発生すると、壊死した脳組織から水分が漏れ出し、脳浮腫が生じます。脳浮腫が進行すると、脳が頭蓋骨の中で圧迫され、さらなる脳機能の低下を招きます。これによって、意識障害が悪化することがあります。
意識障害の重症度と評価 脳梗塞による意識障害の重症度は、Japan Coma Scale(JCS)などのスケールを用いて評価されます。JCSは以下のように分類されます。
- JCS 1桁:軽度の意識障害。呼びかけに対して何らかの反応がある状態。
- JCS 2桁:中等度の意識障害。痛み刺激に対して何らかの反応がある状態。
- JCS 3桁:重度の意識障害。痛み刺激に対しても反応がない状態。
- JCS 300:深昏睡。全く反応がない状態。
意識障害が重症であるほど、予後不良の可能性が高くなります。そのため、脳梗塞が疑われる患者さんでは、意識レベルの評価が非常に重要となります。
脳梗塞による意識障害に対しては、まず血流の再開が最優先です。発症後4.5時間以内であれば、血栓溶解療法(t-PA療法)の適応となります。また、血管内治療による血栓回収療法も有効な選択肢の一つです。
意識障害が重症な場合には、呼吸管理や脳圧管理など、集中治療が必要となります。また、意識障害からの回復期には、リハビリテーションが重要な役割を果たします。
しかし何より大切なのは、脳梗塞の予防です。高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病を適切に管理し、禁煙に努めることが重要です。また、心房細動がある方では、抗凝固療法によって脳塞栓症のリスクを減らすことができます。
脳梗塞による意識障害は、突然に発症し、患者さんやご家族に大きな衝撃を与える症状です。しかし、そのメカニズムを理解し、適切な対処と予防を行うことで、多くの方が後遺症なく回復されています。
もし脳梗塞の症状が疑われたら、一刻も早く医療機関を受診することが大切です。また、日頃から生活習慣を見直し、脳卒中のリスクを減らす努力を続けていきましょう。