腰椎すべり症で歩けなくなる前に。高齢者が痛みを乗り越えた治療とリハビリの記録
2025.11.12
腰が痛い。足が痺れる。
少し歩くだけで辛くなる。でも、座って休めばまた歩ける。
「このくらいなら大丈夫」と思っていませんか?
その症状、もしかしたら腰椎すべり症かもしれません。特に50代以降の女性に多く見られるこの病気は、放置すると歩けなくなる可能性もあります。
この記事では、実際に腰椎すべり症と圧迫骨折を経験した80代女性の実例を交えながら、病気の原因や治療法、リハビリについて詳しくお伝えします。
目次
腰椎すべり症とは何か?女性に多い理由

腰椎すべり症。あまり聞き慣れない病名かもしれません。
これは、腰の骨(腰椎)がすべるようにずれてしまい、バランスを崩してしまう病気です。
腰椎がずれることで、背骨の中を通る神経の通り道(脊柱管)が狭くなります。すると神経が圧迫され、さまざまな症状が現れます。
なぜ女性に多いのか
腰椎すべり症は、特に閉経の頃(50歳〜60歳前後)の女性によく発症します。
この背景にあるのが、女性ホルモンの影響です。
閉経後、女性ホルモンの分泌が減少すると骨粗鬆症が進行します。骨がもろくなり、それまで支えていた腰椎を支えられなくなる。そうして腰椎がすべる現象が起こると考えられています。
こんな症状、ありませんか?
腰椎すべり症の症状は、日常生活の中で少しずつ現れます。
家の中を歩いたり、軽いウォーキング程度なら問題ない。でも、長い距離を歩くとお尻からふくらはぎにかけて痺れや痛みを感じるようになります。
不思議なことに、座って休めばまた歩けるようになります。
「休めば治るから大丈夫」と思って、そこまで気にかけずに過ごす方も少なくありません。しかし、これは腰椎すべり症の典型的な症状です。早めの受診が大切です。
腰椎すべり症の治療法|保存療法と手術、どちらを選ぶべきか

腰椎すべり症と診断されたら、まず知っておきたいのが治療方法です。
治療方法は大きく分けて2種類あります。「保存療法」と「手術」です。
まずは保存療法から始める
基本的に、最初は保存療法から始めます。
保存療法とは、手術をせずに症状を和らげる治療法のことです。具体的には次のような方法があります。
- コルセットで腰を支える
コルセットを装着することで腰を固定し、腰痛や神経への負担を軽減させます。日常生活を送りながら腰を守ることができます。
- 痛みが強い場合の対処
痛みが強い場合には、消炎鎮痛剤を投与したり、ブロック注射を行います。ブロック注射は神経の周りに麻酔薬を注射し、痛みの伝達を遮断する方法です。
- リハビリで筋力を強化
ストレッチや筋力トレーニングも重要な治療の一部です。
特に腰回り、腹筋、背筋は意識的に鍛える必要があります。筋力がつくことで腰椎を支える力が増し、症状の改善や進行予防につながります。
手術が必要になるのはどんな時?
保存療法を続けても効果が得られない場合、手術を行います。
手術では、まず骨を削って神経の通り道を拡張します。そして、ずれてしまっている骨を金属やボルトで固定します。
手術と聞くと不安に思うかもしれませんが、症状が進行して日常生活に支障をきたしている場合には、手術によって劇的に改善することもあります。
圧迫骨折とは|骨粗鬆症が引き起こす背骨の骨折

腰椎すべり症とともに知っておきたいのが、脊椎圧迫骨折です。
これは、上下方向からの力が加わって起こる背骨の骨折です。
軽い衝撃でも骨折する
正常な背骨であれば、高所からの転落など大きな力が加わらなければ骨折しません。
しかし、骨粗鬆症などで骨が弱くなっていると、尻もちをつくなどの軽微な衝撃でつぶれてしまう場合があります。
さらに怖いのは、知らない間に徐々に体の重みで椎体(背骨の本体部分)がつぶれてしまうケースです。痛みを感じず、気づいたときには骨折していたということもあります。
従来の治療法|コルセットと安静
圧迫骨折の治療方法で昔からあるのは、コルセットやギプスを数か月着用する方法や、痛み止めを飲んで安静にしている方法です。
この方法は安全で副作用がありません。ただし、コルセットの場合は3〜4か月は付けておく必要があります。長期間にわたる固定は、高齢者にとって筋力低下などのリスクも伴います。
最新の骨セメント治療
最近では、骨セメントを注入する治療方法も行われるようになりました。
この治療には大きく分けて二つのやり方があります。
- 1. 直接セメントを注入する方法
針を刺して医療用の骨セメントを直接注入する方法です。
- 2. 隙間を作ってからセメントを注入する方法
針を刺した後、セメントを入れる前に風船やステントで背骨に隙間を作ってからセメントを入れる方法です。
ステントとは、体内の管状の部分を内側から広げる金属のチューブのようなものです。
骨セメント治療が適しているケース
寝返りもできないくらい痛い場合や、少し時間がたっても寝起きや体動時に痛みが続く場合には、骨セメント治療により痛みを軽減することができます。
従来の方法に比べて早期に痛みが和らぎ、リハビリも早く始められるというメリットがあります。
80代女性が経験した痛みと決意の物語

ここで、実際に腰椎すべり症と圧迫骨折を経験した高齢者のお話をご紹介します。
ある日突然の出来事
彼女は、踏み台に乗って高い所にあるものを取ろうとしていました。
少し油断してしまった、その瞬間でした。足を滑らせ、腰椎すべり症と圧迫骨折を患ってしまったのです。
痛みと葛藤
激しい痛みに襲われた彼女。しかし、病院には行きませんでした。
「ものすごく痛いけど病院に行って旦那に知られるのは嫌だったんです」
そう語る彼女は、痛みを我慢してベッドで寝ていました。
「この痛みができたのも私のせいだから仕方ない。でも歩いて買い物に出かけたい…」
心の中では歩きたい、外に出たいという思いがありながらも、自分を責める気持ちが先に立っていました。
医師からの厳しい言葉
やがて我慢しきれず病院を受診した彼女に、主治医の先生は厳しい言葉を告げました。
「もう歩けなくなるよ」
手術やリハビリに耐える自信がない彼女は、一歩を踏み出せずもやもやと悩んでいました。
このまま歩けなくなってしまうのか。それとも…。
リハビリを決意したきっかけ
そんな矢先、友達も怪我をしてしまいました。
「このままではいられない。怪我をなんとかしなければ…」
友達の姿を見て、彼女は重い腰を上げたのです。
少しずつ前進する日々
ベッドで寝てばかりだった彼女。手術を受け、リハビリを通して少しずつできることも増えてきました。
まだ目指す動きはできていません。痛みもあります。
それでも、今も頑張って生きていこうと、今もリハビリに打ち込んでいます。
彼女の姿は、同じように悩む多くの方々に勇気を与えています。
腰椎すべり症の予後|手術になるのは何割?

腰椎すべり症と診断されたら、必ず手術が必要なのでしょうか?
実は、そうではありません。
3つのグループに分かれる
腰椎すべり症の患者さんのうち、3割の人は悪化して手術になります。
残りの方々はどうなるかというと、3割は投薬だけの人、残りの3割の人は1回の治療で症状が改善する人です。
つまり、7割の方は手術をせずに症状をコントロールできているのです。
すぐに手術と決めつけない
このデータからわかるのは、痛くなったらすぐ手術と決めつけないほうが良いということです。
まずはしばらく経過をみて、保存療法を試してから最終的な結論をするのが良いでしょう。
もちろん、症状が重い場合や日常生活に大きな支障がある場合には、早めに手術を検討することも大切です。
病院選びのポイント|セカンドオピニオンの重要性

治療を受ける際、病院選びも重要です。
症例数の多い病院を選ぶメリット
治療を多く行っている病院では、医師だけでなく看護師など手術室のスタッフも習熟しています。
経験豊富なチームによる治療は、安全性も高く、術後の回復もスムーズです。
納得してから手術を受ける
手術について心配したり悩んだりした時は、症例数の多い病院のセカンドオピニオンを受けるなど、納得したうえで手術を受けることも大切です。
自分の体のことです。わからないことや不安なことは遠慮せず質問し、十分に理解してから治療方針を決めましょう。
よくある質問(FAQ)

Q1. 腰椎すべり症はどのくらいの期間で治りますか?
保存療法の場合、個人差がありますが数ヶ月から半年程度の治療期間が必要です。コルセットの着用は3〜4ヶ月程度、リハビリは継続的に行うことが重要です。症状によっては、痛くなったらすぐ手術と決めつけず、しばらく経過をみることが推奨されています。
Q2. 手術を受ければ完全に治りますか?
手術により神経の圧迫を取り除き、ずれた骨を固定することで症状の大幅な改善が期待できます。ただし、手術後もリハビリを継続することが大切です。腰椎すべり症の患者さんのうち、約3割の人が手術になりますが、残りの7割の方は保存療法で症状をコントロールできています。
Q3. 圧迫骨折の骨セメント治療にはどのくらいの費用がかかりますか?
骨セメント治療は保険適用となる場合が多く、具体的な費用は医療機関や保険の種類によって異なります。寝返りもできないくらい痛い場合や、少し時間がたっても痛みが続く場合に適しています。詳細は受診する病院でご確認ください。
Q4. リハビリはどのような内容ですか?自宅でもできますか?
リハビリの主な内容は、ストレッチや筋力トレーニングです。特に腰回り、腹筋、背筋は意識的に鍛える必要があります。医師や理学療法士の指導のもと、自宅でも継続してできる運動もあります。ただし、痛みが強い場合は無理をせず、専門家に相談してください。
Q5. コルセットはずっと着けていなければいけませんか?
コルセットは腰を固定して負担を軽減するために使用します。圧迫骨折の場合は3〜4か月は着用が必要です。ただし、長期間にわたる固定は高齢者にとって筋力低下などのリスクも伴うため、医師の指示に従って適切な期間着用することが大切です。
Q6. セカンドオピニオンはどうやって受ければいいですか?
手術について心配したり悩んだりした時は、症例数の多い病院のセカンドオピニオンを受けることをおすすめします。現在通院している病院で紹介状を書いてもらうか、直接他の医療機関に問い合わせることもできます。治療を多く行っている病院では、医師だけでなく看護師など手術室のスタッフも習熟しているため、安心して相談できます。
まとめ|早めの対応が未来を変える

腰椎すべり症は、決して珍しい病気ではありません。特に50代以降の女性にとっては、誰にでも起こり得る病気です。
腰椎すべり症の患者さんのうち、3割の人は悪化して手術になりますが、それ以外の3割は投薬だけの人、残りの3割の人は、1回の治療で症状が改善する人です。そのため、痛くなったらすぐ手術と決めつけないでしばらく経過をみて最終的な結論をするのが良いでしょう。
治療を多く行っている病院では、医師だけでなく看護師など手術室のスタッフも習熟しているので、手術について心配したり悩んだりした時は、症例数の多い病院のセカンドオピニオンを受けるなど、納得したうえで手術を受けることも大切です。
80代の彼女は、痛みと不安の中で一歩を踏み出しました。今もリハビリを続けながら、少しずつ前に進んでいます。「もう歩けなくなる」と言われても、諦めなかった。その決意が、今の彼女を支えています。
もし今、腰や足の痛み・痺れで悩んでいるなら、一人で抱え込まないでください。医療機関を受診し、専門家の意見を聞くことから始めましょう。早めの対応が、あなたの未来を変えるかもしれません。





