体幹を鍛えて運動失調症改善を目指すリハビリとは?目標の立て方とトレーニング方法も解説
2023.10.10
「運動失調症」とは、脳の損傷や脊髄の腫瘍などによって起こる運動障害のことをいいます。「自分の意思で手足を制御できない」「身体が動きすぎてしまう」という悩みを抱えることが多く、精神的にも生活的にもつらい障害です。
上記のような症状を抱える運動失調症には、リハビリが欠かせません。特に体幹を鍛えるリハビリが薦められることが多いです。
この記事では、運動失調症の原因や特徴を解説します。また、体幹を鍛えて運動失調症改善を目指すリハビリやトレーニングについても解説します。
目次
体幹の安定で改善する?運動失調症の特徴やリハビリの必要性とは
なぜ体幹を鍛えて安定させる運動失調症のリハビリが有効なのでしょうか?そこには、運動失調症ならではの特徴が関係しています。
まずは運動失調症の特徴や原因、リハビリの必要性について解説します。
運動失調症の特徴は「筋肉があっても動けない」
運動失調症とは、主に小脳や脊髄の障害によって起こる障害です。麻痺がないのに姿勢保持・動作がしづらくなったり、動きがぎこちなくなったりします。また、じっとしていられなくなってしまう「多動性障害」に似たような症状が起こることもあります。
運動失調症は、たとえ鍛えていたとしても動けなくなってしまうのが特徴です。そのため、運動失調症では筋肉の動きを制限したり、思い通りに動かせるようになるリハビリが必要になります。
運動失調症の主な原因
運動失調症の主な原因は、脳卒中・脳腫瘍・外傷などによる小脳・大脳の損傷です。脊髄由来の場合は「脊髄腫瘍」や「変形性頚椎症」が原因となることもあります。
また、脳・脊髄の損傷以外では平衡感覚に関わる原因が多いです。回転性のめまいが特徴の「メニエール病」でも運動失調症が引き起こされることもあります。
また、放射線中毒・甲状腺機能低下症・ビタミンE欠乏症といった病気が原因で起こる場合も。ただし、これらの病気は日本ではあまりみられないため、基本的には脳・脊髄の損傷や腫瘍によるものが多いと考えて良いでしょう。
障害部位によって症状は異なる
一言に運動失調症といっても、障害を受けている部位によって症状が変わります。基本的には4つの症状に分類されます。以下が分類の見分け方です。
名称 | 障害部位 | 主な症状 |
小脳性失調 | 小脳 | 手足が思うように動かせない・動かしすぎる。体幹が安定しなくなる。 |
脊髄性失調 | 脊髄・頚椎 | 鶏足(足を高く上げて床に叩きつけるように歩く)など |
前庭迷路性失調 | 内耳の中にある「前庭」 | 寝起きのバランスがとれなくなる、歩き方がおかしくなる |
大脳性失調 | 前頭葉・側頭葉・頭頂葉のいずれか | 体幹のふらつきが強くなる、まっすぐ歩けなくなる |
特に加齢に伴って多くなるのが脊髄性失調です。脊髄性失調の原因には、頚椎の加齢変化による変形性頚椎症が含まれています。特に高齢者においては気をつけたほうが良いでしょう。
インナーマッスル(体幹)を鍛え運動失調を克服!リハビリと目標
運動失調症では、体幹を鍛えるリハビリが有効とされています。ここでは、体幹トレーニングが有効な理由とリハビリ目標の立て方について解説します。
小脳性・大脳性運動失調は特に体幹トレーニングが大事
運動失調症には多様な症状がみられます。その中でも特に体幹トレーニングが必須といわれているのは小脳性失調と大脳性失調です。特に小脳性失調では、体幹の筋肉がうまく働きません。歩く際に身体をまっすぐ保てなくなります。
そのため、手足ではなく体幹でバランスを保てるようになるトレーニングが重要になります。中でも深層筋=インナーマッスルである4つの筋肉を重点的に鍛えたいところです。
- 腹横筋
- 多裂筋
- 骨盤底筋
- 横隔膜
ただし、器具を使ったトレーニングではなく「ドローイン」など、安静時でもできる体幹トレーニングが行われます。
リハビリ目標は症状に応じて
どのタイプの運動失調症でも、リハビリをする際は目標を立てなければいけません。まずは、どんな症状をきたしているかによって目標を替えましょう。
以下に症状に合わせた目標の例を記載します。
- スムーズな歩行が困難=スムーズに歩行できるようにする→歩行訓練で正しい歩行を学習させる
- 姿勢が安定せずふらふらする=体幹を安定化する→体幹トレーニングを行う
上記のように、症状に応じた目標を立てるようにしましょう。また、達成しやすい「小目標」と最終的な目標である「大目標」を立てるのがおすすめです。モチベーションの維持にも繋がります。
リハビリ中の転倒予防が最優先
運動失調症を発症している場合、転倒予防が必要です。運動失調症の患者さんは、リハビリ中はもちろん、日常生活でも転倒リスクが高まるからです。
まず、リハビリ中は転倒リスクを低減する歩行を反復練習しましょう。また、生活環境における転倒リスクについても知っておくと、日常の転倒予防に繋がります。
- 靴の着脱に椅子を利用する
- 床に物を置かないようにする
- ベッドに転落防止の「ベッドガード」をつける
運動失調症の方が転倒すると、受け身が取れないことが多く、骨折などの怪我リスクが高いです。高齢者であっても若年者であっても、必ず対策をしましょう。
体幹強化以外にも…運動失調症のリハビリ方法
体幹強化以外にも、運動失調症のリハビリにはバリエーションがあります。ここでは、体幹トレーニング以外のリハビリの例を2例解説します。
フレンケル体操で正しい力加減を身につける
フレンケル体操とは、1887年にスイスのハインリッヒ・セバスチャン・フレンケル教授が開発した運動療法です。主に下肢(歩行・立ち座り)に障害がある方に効果があります。
フレンケル体操のメリットは、症状に合わせて難易度調整ができるという点です。また、自分で正確な運動ができているか確認しながらできるため、自宅学習でも使えます。
ただし、フレンケル体操の目的は「繰り返し運動による協調性改善のための運動」であり、筋力強化ではありません。下肢の筋力強化には、別のトレーニングを行う必要があります。
重りや弾性緊縛帯の利用で運動制限
運動失調症には「動きすぎる」という症状があります。この症状の方には、重りや弾性緊縛帯を利用して動きを制限し、動きすぎない状態での歩行・運動の訓練を行います。
重りを利用した運動制限は、主に失調性歩行をきたしている方向けです。重りをつけると、重さや圧迫感など、通常の歩行とは違う感覚情報が脳に伝わります。足や関節が動く感覚、方向が脳に多く伝わるようになり、歩行の感覚を取り戻す効果が期待されています。
弾性緊縛帯は腰部・股関節・膝関節といった体の中心に巻くのが一般的です。巻いた部分の過剰な動きを抑制しながら運動すると、ふらつきが軽減できます。この状態で正しい動き方の練習をするのが目的です。
【参考:J-stage「感覚性運動失調に対するリハビリテーションアプローチ」】
まとめ:体幹の筋力トレーニングは運動失調症リハビリの鍵に
体幹の筋力トレーニングは、運動失調症のリハビリにおいて重要な項目となります。ただし、脊髄性失調・前庭迷路性失調ではあまり効果がありません。
体幹トレーニングが必要ない運動失調の場合、フランケル体操や重り・弾性緊縛帯を用いた歩行訓練が行われます。
どの運動失調症でも、リハビリは必要不可欠です。リハビリをする際は、小目標・大目標を立て、モチベーションを保てるようにしましょう。
大事なのは、患者さんの「できること」を増やすことです。通常の歩行を取り戻せるように、長い目でリハビリを行いましょう。